亭主の好きな赤烏帽子
(ていしゅのすきなあかえぼし)

 一家の主人の好みとなれば、どんなに異様な趣味であっても、家族はそれに従わなくてはならないということ。烏帽子は黒塗りが普通だが、赤烏帽子を被りたがる主の悪趣味にも、「みっともないからおやめなさい」といえないのが昔の家制度だった。

貞女は両夫に見えず
(ていじょはりょうふにまみえず)

 貞操の堅固な女性は、生涯一人の夫しかもたない。再婚はしないということ。

同意語: 「貞女は二夫に見えず」
類語: 「忠臣は二君に事えず

泥中の蓮
(でいちゅうのはす)

 汚れた環境の中にあっても、悪に染まることなく清らかさを保つことのたとえ。インド原産の蓮は仏教とも関わりも深く、その花は清らかな品格をそなえる。

手が空く
(てがあく)

 一時的にひまになる。

手が後ろに回る
(てがうしろにまわる)

 警察に捕らえられる。

手が掛かる
(てがかかる)

 時間と労力がかかる。

手書きあれども文書きなし
(てがきあれどもふみかきなし)

 字の上手な人は多いが、優れた文章を書く人は少ない。「手書き」は字のうまい人、「文書き」は文章のうまい人。

手が出ない
(てがでない)

 なすべき手段がない。

手が塞がる
(てがふさがる)

 他のことをする余裕がない。

適材適所
(てきざいてきしょ)

 ある事柄に適した才能を持つ者を、それに適した地位・任務につけること。

敵に塩を送る
(てきにしおをおくる)

 普段は競い合っているライバルが、別の分野で困っていることを知って、それに援助を与えることを言う。戦国時代、越後の上杉謙信が、宿敵である甲斐の武田信玄が塩不足で困っているのを知り、塩を送ってこれを助けた。

敵は本能寺にあり
(てきはほんのうじにあり)

 本当の目的は別のところにあるということ。天正十年(1582)、備中の毛利氏を攻めると称して出陣した明智光秀が、その途中で急に方向を変え、京都の本能寺にいた主君織田信長を急襲したという故事に基づく。

敵を見て矢を矧ぐ
(てきをみてやをはぐ)

 敵の姿を見て、あわてて矢を作る。事が起こってから、初めて準備に取り掛かること。

同意語: 「戦を見て矢を矧ぐ
類語: 「泥棒を見て縄を綯う

出遣いより小遣い
(でづかいよりこづかい)

 まとまって出る多額の経費よりも、集計すれば日常のこまごまとした支出の方が大きいということ。

同意語: 「大遣いより小遣い」

鉄心石腸
(てっしんせきちょう)

 鉄や石のように堅固な意志を言う。鉄の心に石の腸の意で、堅くて変わることのない意思や精神を鉄石にたとえて言う。

同意語: 「鉄石心腸」

鉄中の錚錚
(てっちゅうのそうそう)

 鉄の中でもよく鍛えられてやや堅いもの。普通の人よりはやや優れた人のことを言う。「錚錚そうそう」は、鉄の触れ合う音の中で少し澄んだ良い音を言い、本来は多くのものの中で少し優れたものという意味だが、現代では「錚錚たる人物」というと「特に優れた人物」の意で使われている。

徹頭徹尾
(てっとうてつび)

 始めから終わりまで。一つの考えや方針などを、徹底してあくまでも貫くさま。

鉄は熱いうちに打て
(てつはあついうちにうて)

 鉄は熱して軟らかいうちに鍛えるように、人も若くて純真な心を失わない時期に教育を施さなくてはならないということ。広く、物事を行うには時機を逸してはならないの意でも使う。“Strike while the iron is hot.”の訳から。

同意語: 「鉄は熱いうちに鍛えよ」
類語: 「めるなら若木のうち」、「好機逸すべからず」

轍鮒の急
(てっぷのきゅう)

 差し迫った危険のたとえ。また、差し迫った困窮のたとえ。「轍鮒」はわだち(車輪の跡)の水たまりにいるふな。『荘子・外物』の故事に基づく。ある時、貧しかった荘周(荘子)が知人の監可侯のところに穀物を借りに行った。婉曲えんきょくに断ろうとした監可侯は「それならば近々税金を取り立てる予定があるから、その金を貸してやろう」などと悠長なことを言う。そこで荘周はこんな話をした。「ここへ来る途中のことだが、わだちの水たまりで鮒があえいでいた。その鮒が私に水を恵んでくれと言う。そこで私が、これから呉越ごえつの王を訪ねて南方に行くところだから、かの地に着いたら揚子江ようすこうの水をせき止めて迎えにこようと言うと、鮒は『わずかな水さえもらえればそれで命がつなげるというのに、そんな悠長なことを言われても困る。迎えを待っていたら、干からびて干物になってしまうではないか』と言って怒った。今の私は、その鮒と同じ心境だよ」

類語: 「焦眉しょうびの急

手に負えない
(てにおえない)

 どうにも処理できない。

手の無い将棋は負け将棋
(てのないしょうぎはまけしょうぎ)

 方策がなければ成算もないということ。金も突けなきゃ銀とて引けず、桂馬の高飛び歩の餌食。守るにも攻めるにも指す手に詰まるような将棋は、結局は負けとなる。

手の舞い足の踏むを知らず
(てのまいあしのふむをしらず)

 嬉しさのあまり踊り出すさまを言う。もともとは詩歌や音楽の楽しさを言った。

出物腫れ物所嫌わず
(でものはれものところきらわず)

 おならもおできも出る場所をわきまえず、出たい所に出てしまうということ。「出物腫れ物」は屁や吹き出物の類。

同意語: 「出物腫れ物時知らず」

寺から里へ
(てらからさとへ)

 檀家から寺へ贈り物をするのが普通なのに、寺から檀家へ物を贈る。物事があべこべであることのたとえ。京都いろはがるたの一つ。「里」は檀家の意。

寺にも葬式
(てらにもそうしき)

 人の葬式を執り行う寺にも住職や家族の葬式があるように、人の世話をする立場にあっても、やがては人の世話となる順番がめぐってくるということ。

出る杭は打たれる
(でるくいはうたれる)

 頭角をあらわす者はとかく人から憎まれるということ。また、差し出がましいことをすれば制裁を受けるということ。並べて打った杭の一本が高く出過ぎれば、そろえるために打ちへこまさなくてはならない。

同意語: 「出る釘は打たれる」
類語: 「喬木は風に折らる」、「高木は風に倒る

出る船の纜を引く
(でるふねのともづなをひく)

 未練がましいふるまいをすること。「ともづな」は船をつなぎとめておく綱。

手を貸す
(てをかす)

 仕事などを手伝う。

手を染める
(てをそめる)

 ある物事をし始める。

手を出したら負け
(てをだしたらまけ)

 どんな訳があろうとも、喧嘩では最初に腕力を振るった者が悪いということ。

手を引く
(てをひく)

 それまでの関係を断つ。

手を翻せば雲となり手を覆せば雨となる
(てをひるがえせばくもとなりてをくつがえせばあめとなる)

 人情がたちまちのうちに変わり、いっこうに頼みとならないこと。手のひらをちょっと上に向けただけで雲が湧き、下に向けただけで雨が降る。それほどに人の心は軽薄だとして、唐の詩人杜甫とほは「いまや交情は軽薄、人情は紙のごとし」と嘆いた。

同意語: 「翻雲覆雨はんうんふくう

手を焼く
(てをやく)

 どう処置したらよいか困る。

天衣無縫
(てんいむほう)

 詩文にわざとらしい技巧の跡がなく、自然のままに美しく完成していること。また、人柄が天真爛漫で何の飾りけもないこと。天人の衣には縫い目がないということから。

天涯孤独
(てんがいこどく)

 身寄りがこの世にひとりもいないこと。また異郷にただ独りで暮らすこと。

天下太平
(てんかたいへい)

 世の中が極めて穏やかに治まっていて平和であること。安穏無事でのんびりしているさま。

伝家の宝刀
(でんかのほうとう)

 代々家宝として伝わってきた名刀。転じて、いざというときにだけ使う、とっておきの手段。

天下は回り持ち
(てんかはまわりもち)

 天下の支配者となる運命は誰の上にも等しく回りめぐってくるということ。また、貴賎貧富の運命はすべての人にめぐってくるということ。草鞋取りから出世して天下を取った者もあれば、藁しべを売りながら長者になった者もある。運命がどう変わっていくか、長い目で見なくては分からない。

天機泄らすべからず
(てんきもらすべからず)

 重大な秘密は決して漏らしてはならない。「天機」は万物を造り出す天のからくり。転じて、マル秘中のマル秘を言う。

天空海濶
(てんくうかいかつ)

 大空にさえぎるものがなく、海が広々と果てしなく大きいこと。度量が大きく包容力に富む。

天勾践を空しうすることなかれ、時に笵蠡なきにしもあれず
(てんこうせんをむなしうすることなかれ、ときにはんれいなきにしもあらず)

 天は勾践こうせんを見捨てはしない。時が至れば笵蠡はんれいのような忠臣が現れないとも限らないではないか。勾践は春秋時代の越の王。会稽の戦いで呉王夫差ふさに敗れたが、忠臣笵蠡を得て、艱難辛苦の末に呉を滅ぼした。

天災は忘れた頃にやってくる
(てんさいはわすれたころにやってくる)

 天災は、人々がその恐ろしさや災害への心構えを忘れてしまった頃に、再びやってくる。日頃の用心、警戒を怠るなということ。

同意語: 「災害は忘れた頃にやってくる」

天上天下唯我独尊
(てんじょうてんげゆいがどくそん)

 天地間に個として存在する「我」よりも、尊い存在はないということ。釈迦が生まれたとき、一方の手では天を、一方の手では地を指して、七歩進んでから四方を顧みて言ったということば。「唯我独尊」は自分だけが優れていると思い上がるうぬぼれの意でも使うが、本来は宇宙間に個として存在する人間の尊厳を示す。奇跡の受胎をしたシャーキャ族の王妃マーヤ(摩耶夫人)は、ルンビーニの園で無憂華むうげの木の枝に右手でつかまりながら、いささかの陣痛もなく脇腹からゴータマ・シッダールタ(釈迦牟尼しゃかむに)を産み落としたと伝えられる。

同意語: 「唯我独尊

天壌無窮
(てんじょうむきゅう)

 天地とともにきわまりのないこと。永遠に続くこと。

天知る神知る我知る子知る
(てんしるかみしるわれしるししる)

 二人だけの秘密にしたくとも、天も知り神も知り相手も自分も知っているのだから、不正は必ず露見するということ。昌邑しょうゆうの町長王密おうみつが「夜なので誰にも気づかれません」と言って、黄金十きんの賄賂を差し出したとき、楊震ようしんは「天知る神知る我知る子知る、何ぞ知る無しと謂わんや」と言って断ったという、『後漢書・楊震伝』の故事に基づく。

同意語: 「四知」、「神は見通し」、「天知る地知る我知る人知る」
類語: 「神はお見通し」

天神地祇
(てんしんちぎ)

 天の神と地の神のこと。すなわち、すべての神々。

天真爛漫
(てんしんらんまん)

 自然のままで飾り気がなく、偽りのないさま。ありのままの真情が言動に現われること。

天声人語
(てんせいじんご)

 ⇒「天に口無し人をして言わしむ

転石苔を生ぜず
(てんせきこけをしょうぜず)

 (1)職業を転々としている人は、金が身につかない。
 (2)活発に活動を続けていれば、時代に取り残されることはない。
 英語の“A rolling stone gathers no moss.(転がる石は苔をつけない)”から。


同意語: 「転がる石には苔が生えぬ
類語: 「使っている鍬は光る

椽大の筆
(てんだいのふで)

 堂々たる立派な文章のこと。「椽」は垂木。屋根を支えるために棟から軒に渡す材木を言う。晋の#ruby:王ト#が垂木のような大きな筆を与えられた夢を見た。これは大いに筆をふるうことになる前兆だと思っていると、急に武帝が崩じ、弔辞などの文章はすべて王弔サ颪C海箸砲覆辰燭箸いΩ了「亡陲鼎@」

天高く馬肥ゆ
(てんたかくうまこゆ)

 秋になると空は澄み渡って高く晴れ、馬は食欲が増して太ってくる。秋の好事節を言うことばで、人々の食欲が増進すること、秋の天候がすがすがしいことの形容に使う。

同意語: 「秋高くして馬肥ゆ」、「天高くして馬肥ゆる秋」

天地開闢
(てんちかいびゃく)

 天地の開け初め。天地発生のとき。

天地神明
(てんちしんめい)

 天地の神々。「天地神明に誓って」の形で用いられることが多い。

天地は万物の逆旅
(てんちはばんぶつのげきりょ)

 世の移ろいやすく、人生のはかないことを言う。「逆旅」は旅人を迎える宿。唐の李白の「春夜桃李園の宴するの序」に、「れ天地は万物の逆旅にして、光陰は百代の過客かかくなり」とあるのに基づく。

天長地久
(てんちょうちきゅう)

 天地が永久に尽きないように、物事がいつまでも長く続くこと。『老子・第七章』に「天は長く地は久し。転地のく長く且つ久しき所以ゆえんの者は、其の自ら生きんとせざるを以てなり。故に能く長生なり」とあるのに基づく。

天地を動かし鬼神を感ぜしむ
(てんちをうごかしきしんをかんぜしむ)

 詩歌には天地を揺るがせ、神霊を感動させる働きがあるということ。『詩経・周南・関雎序』に「得矢(是非)を正し、天地を動かし鬼神を感ぜしむるは、詩よりも近きはし」とあるのに基づく。

天道様は見通し
(てんとうさまはみとおし)

 地上をくまなく照らしているお天道様は、人間のすることはすべてお見通しである。悪事はいずれ露見するというたとえ。

同意語: 「神は見通し

天道是か非か
(てんどうぜかひか)

 天の道は本当に正しいのだろうか。司馬遷しばせんは『史記・伯夷伝』の中で、「周の武王を諫めた伯夷はくい叔斉しゅくせいは、正義を貫くために首陽山しゅようざんで餓死し、大盗賊の盗跖とうせきは悪の限りを尽くしながら天寿を全うした。天道是か非か。天は果たして正しい者の味方なのか」と疑問を投げかけている。

天にあらば比翼の鳥地にあらば連理の枝
(てんにあらばひよくのとりちにあらばれんりのえだ)

 夫婦の情愛がきわめて深く、互いに離れがたいことのたとえ。「比翼の鳥」は雌雄ともに一つづつの目と翼をもち、常に一体となって飛ぶという伝説上の鳥。「連理の枝」は並んで生えた二本の木が枝のところで一体につながったという伝説上の樹木。いずれも仲睦まじい夫婦のたとえに使う。

同意語: 「比翼の鳥」、「比翼連理」、「連理の契り」、「連理の枝」
類語: 「鴛鴦の契り

天に口無し人をして言わしむ
(てんにくちなしひとをしていわしむ)

 天はことばを発しないが、天意は人の口を通して伝わるということ。天の意志が大衆の声となって現れることを言う。

同意語: 「天に口無し人を以て言わしむ」、「天声人語」
類語: 「民の声は神の声」

天に唾す
(てんにつばきす)

 人に害を与えようとして、かえって自分がひどい目にあうこと。『四十二章経』に「悪人の賢者を害するは、なお天を仰ぎて唾するがごとし。唾天を汚さず、還って己が身を汚す」とあるのによる。

同意語: 「天に向かって唾す」、「天を仰ぎて唾す」
類語: 「お天道様に石」、「悪事身に返る」、「寝て吐く唾は身にかかる」

天然自然
(てんねんしぜん)

 あるがままに、人の手が加わらないで存在する状態。

天の時は地の利に如かず
(てんのときはちのりにしかず)

 晴雨・寒暑などの天候や、日の吉凶、時刻など天の時を利用して攻めるのは極めて有効だが、地の利を得て要害堅固なのには及ばないということ。

天罰覿面
(てんばつてきめん)

 天の下す罰がたちどころに現れること。悪事のむくいが自然に与えられること。

天は二物を与えず
(てんはにぶつをあたえず)

 一人の人間がそう幾つもの長所や才能に恵まれるものではないということ。

同意語: 「天二物を与えず」
類語: 「佳人薄命」、「才子多病」、「弁慶にも泣き所」

天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず
(てんはひとのうえにひとをつくらず、ひとのしたにひとをつくらず)

 人間はすべて平等であって、生来貴賎・上下の差別はないということ。福沢諭吉が著した『学問のすゝめ』(明治五〜九年刊)の冒頭にあることば。造化の神はことさら身分の高い人間もつくらないし、ことさら身分の低い人間もつくらない。

天は自ら助くる者を助く
(てんはみずからたすくるものをたすく)

 天は独立独行して努力する者を手助けし、彼に幸福をもたらす。西洋のことわざで、“God [Heaven] helps those who help themselves.”の訳語。ベンジャミン・フランクリンの『富に至る道』に見え、中村正直訳の『西国立志編』(S・スマイルズ著。原題Self-Help)に引用され広がったという。

類語: 「人事を尽くして天命を待つ

田夫野人
(でんぷやじん)

 いなかもの。教養、良識に欠ける人をさげすんでいう。無風流な人。

天変地異
(てんぺんちい)

 天上界に現われる異変と、地上に起こる異変。天地自然の中で起こる異変・災害。

天網恢恢
(てんもうかいかい)

 ⇒「天網恢恢疎にして漏らさず

天網恢恢疎にして漏らさず
(てんもうかいかいそにしてもらさず)

 天道は厳正であるから、悪事には必ず天罰が下るということ。「恢恢」は、広くて大きいさま。

同意語: 「天網恢恢」

天佑神助
(てんゆうしんじょ)

 天の助け、神の加護。思いがけない偶然によって助かることのたとえ。

天を怨みず人を尤めず
(てんをうらみずひとをとがめず)

 世間で認められなくても、天をうらんだり、人をとがめることはしない。ひたすら我が身を修めよということ。