酒場にて
「おい、ちょっと飲みすぎじゃないか」
「そうかあ?」
「明日も仕事だろ。トム爺さんにまた怒鳴られるぞ」
「親方のことなんて言うなよぉ。酒が不味くなるぜ」
「…………」
「わかったよ、そんなに睨むなよ。そんじゃあ帰るよ。悪いけど今日はツケにしといてくれるか?」
「構わんよ。ああ、そうそう、トム爺さんにたまには顔を出せって伝えておいてくれ」
「ん。わかった。それじゃあまたな」
「気ぃつけてな」
「ありがとうございましたー」
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「親父ぃー、エールもう一杯くれー」
「あいよ。おう、これ頼むわ」
「はーい。……はい、どーぞー」
「おーう、来た来た。ありがとよ。……ぷっはー、う~ん、不味い、もう一杯!」
「青汁じゃねえんだからよ。っつーか、おまえもちょっと飲みすぎじゃないか」
「へっ、あんな革職人なんかと一緒にすんなよ。鍛え方が違ぇんだよ」
「体はそうかもしれんがな、肝心の剣が錆付いてちゃ話にならんぞ。明日は久々の仕事だろうが。少しは準備でもしたらどうなんだ」
「おいおい、勘弁してくれよ親父さん。ゴブリンの十匹や二十匹、小指でちょちょいのちょいだぜ。そこらの棒っきれで戦ったって遅れはとらねえよ」
「阿呆。昼間言ったろうが。ただのゴブリンの集団じゃあねえんだ。魔法を使うヤツも多いらしいし、ロード種がリーダーだっつう噂まであるんだぞ」
「ロンドだかなんだかしらねえが、今の俺ならドラゴンにだって負けねえぜガハハハ」
「大分酔ってるな。一年前にコボルドの罠にかかって危うく死に掛けたのをもう忘れたのか?」
「い、いや、あれはよぅ……昔の話だしよぉ……」
「数ヶ月前に小型のドラゴンに仲間を二人も殺られて泣きながら逃げ帰ってきたのをもう忘れたのか?」
「チッ、そいつぁあいつらが弱すぎたんだよ。あいつらが足引っ張らなきゃあ、俺だって……」
「そうかい。なら口だけでなく行動で示してくれ。妄想癖のある口ばかり達者な冒険者の集まる酒場、なんて評判を立てられたらたまらんからな」
「わかったわかった、わかったよ。ったく、俺の親父よりうるせえ親父だぜ」
「おっと、二階に上がる前に金を払ってけよ」
「マスター、私お尻を触られましたー」
「ほうほう、ウチの大事な看板娘の尻をなぁ。お触り代と説教代込みで、お代は5000spだな」
「ボッタクリバーかよ!」
「ハハハハ、冗談だよ。説教代込みで100spだ」
「説教代は冗談じゃねえのかよ! っつーか娘さんの尻(たけ)えっ!」
「うるせえ野郎だな。しょうがねえ、酒代のみで20sp払え」
「いやいやいや、しょうがねえってアンタ、それが普通だろうよ。に、睨むなよ。払うよ、払うって。……ありゃ、手持ちがねえや。悪ぃけどツケといてくれ」
「ふざけんな」
「な、なんだよ。あの革職人にはあっさりオッケー出したじゃねえか。差別すんなよ」
「ふん、差別じゃねえ、区別だ。おめえなんざ、いつおっ()ぬかわからねえだろうが。冒険者なんてやくざな仕事から足洗って、定収入を得られるようになったら考えてやるよ」
「んなこと言ったってねえもんはねえんだよ。仕事から戻ったら必ず払うからよ」
「戻って来る保証でもあんのか? 金がねえならおめえのそのシミったれた剣をよこせ。そんなんでも売りゃあいくらかにはなるだろ」
「お、おい、剣を取られたら仕事にならねえだろ!」
「棒っきれで充分なんだろ?」
「う、いや、そりゃ言葉のあやっつうか勢いっつうかよ」
「だったら仕事は無理だな。依頼人にはもっと腕っこきを紹介しとくから心配すんな」
「そういう問題じゃねえだろ!」
「マスター、治安隊に連絡してきますねー。無銭飲食者がいるってー。大声でわめいて暴れてますってー」
「お、おいおい、待ってくれよ!!」
「待てねえよ。とっ捕まんのがイヤならさっさとその剣を出すんだな」
「……わかったよ! ほらよ! クソッ、これからどうすりゃいいんだ……」
「剣のいらねえ仕事だってあるぞ」
「んな仕事をするために冒険者になったわけじゃねえんだよぉ……」
「だったら冒険者なんてやめちまえ。言っとくが、仕事しねえなら近いうちに出てってもらうからな。プー太郎にタダ飯食わせるために仲介料貰ってるわけじゃねえんだからよ」
「う、ううう……鬼ぃ、悪魔ぁー! うわーん!!」
「床が傷むから走らないでくださーい」
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「ねえ、マスター」
「うん?」
「ちょっとやり過ぎだったんじゃないですかぁ?」
「……かもな。だが……あいつは冒険者稼業にゃ向いてないよ。ウチの冒険者はみんな、俺の息子みてえなもんだ。無駄に死んで欲しくねえのさ」
「マスター……、ハゲのくせになんだか格好いいですね」
「ハゲは余計だ」
「あと、この話の方向性っていうか、言わんとしていることがさっぱりわかんないです」
「大丈夫だ、俺にもわからん」
「威張んないでください」
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