つんぼの床屋
 私は小さい頃からずっと同じ床屋を利用していた。髪型に特にこだわりがなく、別にどこでも同じであろうと思っていたためであるが、院生時代を過ごした石川でテキトーに入った床屋で、四千円などという法外な値段をふっかけられたため、少なくとも値段は気にするようになった。なんとなくどこも大体同じ値段だろうと思っていたのだが、色々店を見てみると結構差がある。ちなみに私が小さい頃から利用していた店は三千円(子供はもっと安い)、石川で好んで利用していた店は千五百円である。どちらもオサレなへああさろんの類ではなく、やっていることに大差はないので、この値段の差はかなり大きい。そんなわけで、仙台に帰ってきた際になるたけ近場で安いところを探したのであるが、残念ながら二千円以下の店は見つからず、現在は二千二百円の店を利用している。
 さて、先日髪がうざったくなってきたので床屋に行ったのであるが、かなり客が入っており、二時間から三時間待ちは必至であると思われたので、仕方なく三千円の床屋に向かった。しかし、夏休み中で子供が多く、そこもまた満員であった。特に予定があったわけではないが、なんとなく長い待ち時間に耐えられない心境であったので、一度も入ったことはないが、いつも客がいないという噂を聞いている、つんぼ(聴力障害者)の人が経営している床屋に行ってみることにした。入ってみると、確かに誰もおらず、いくつかの髪型が描かれたプレートがかかげられている。全く耳の聞こえない店主に自分の希望を伝えるために用意されているようだ。そこで、奥から出てきてあーとかうーとか唸る店主になんとか希望を伝え、早速髪を切ってもらう。私には店主の腕の良し悪しはよくわからないのだが、とくにかく荒い。まるで自分が人形になったかのようにグイグイといじりまわされる。思わず口で抗議するも、通じないことを思い出し、なんとかジェスチャーで説明しようとするも失敗。カウンターに置いてある筆談用のメモ帳に手を伸ばすも、店主に抑えられてしまう。恐らく、切っている最中は危ないから動くなというつもりなのであろうが、こちらにしてみればまるで拷問を受けている気分だ。そんなこんなで、なんとか無事に終了し、レジにて値段の書かれたプレートを指差されてそちらを見ると、三千二百円の文字が。……高いって。何もめちゃめちゃ安くしてくれとは言わないが、せめてすぐ近所にある店(三千円の店)よりは安くしようじゃないか。仕方がないとはいえ、客に不自由な思いをさせるのであるから、ある程度安くしてその分多く回転させるというのが正しい商売のありかたではないか。と、口で言って通じるのなら言いたいところだったのだが、なにせ筆談で伝えるよりない状況(私は手話の心得はない)なので、面倒臭いから言わずじまいである。まったく、よくもまああれで生計が立つものだ。商売をしている場合はどうなのか知らないが、なんらかの保護でも受けているのであろうか。いずれにせよ、もう二度と行くことはないであろうからどうでもいい。皆も無駄に高い金を払うことなく、なるべく安い床屋を探してみると良い。……いや、私が今まで無頓着であっただけで、常識なのであろうとは思うが。

補足 [床屋]
 そういえば何故「床屋」というのだろうかと思い、調べてみた。江戸時代、男の髪を結う髪結いが床店とこみせで仕事をしていたことから散髪屋のことを床屋というようになったのだそうである。床店というのは、商品を並べるだけの簡易店舗、または移動式の店(つまり屋台)のことだそうな。こうして調べてみると、以前雑学辞典か何かで読んだ記憶があるが、すっかり忘れていた。とりあえず一つ勉強になったのでよしとしよう。いつまで覚えていられるかは定かではないが。
2004.08.10 01:00 | pmlink.png 固定リンク | folder.png 日記 | com.gif コメント (0)
コメント一覧
コメント投稿

名前

URL

メッセージ

- CafeLog -