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スミレ博士の研究室 - [第七回]

マクスウェルの悪魔

 みなさん、お久しぶりです。スミレ博士の助手のヒデ丸です。

 あれから一月がたち、順調に進んできた僕の研究も行き詰まってしまいました。僕の研究は「コンデンサを流れる電流と悪魔」というものですが、その肝心の悪魔を捕らえることができないのです。みなさんもご承知のように、何故コンデンサに電流が流れるのかは長年謎とされてきました。神の奇跡と言う人もいれば、宇宙人の仕業だと言う人もいるし、超常現象を認めない大槻教授はプラズマ論で説明しています。

 しかし、一番有力な説はやはり「マクスウェルの悪魔」でしょう。これは物理学者マクスウェル氏(James Clerk Maxwell)の発表した説で、悪魔が電子を運んでいるという説です。僕はこの説を証明するために研究・実験を繰り返し、ついに電子を運んでいる悪魔を発見したのです。ところが、この悪魔を捕らえることができません。最後の手段として「ミクロの決死圏」ばりのナノマシン(分子機械ではなく、分子レベルまで物質を縮小させることのできる機械)でミクロならぬナノの世界へと旅立ったのですが、なんと彼らに触れることができないのです。まるで実体をもっていないようです。 マクスウェルの悪魔
図1. 空想顕微鏡で捉えた「マクスウェルの悪魔」
(図の左上に見えるのが電子)

 頼るべき人もおらず、呆然としている僕に、スミレ博士のお客さんが訪ねてきました。その人はヤニ・パンツ博士。物知り学の博士号を持つ人で、スミレ博士が学生のころにお世話になった人だそうです。半壊した先生の研究室を訪ね、張り紙を見て僕の所に来たそうです。
 パンツ博士は僕の研究に興味を示し、悪魔学の博士を紹介してくれると言ってくれました。なるほど、マクスウェルの悪魔といっても悪魔には違いないのですから、悪魔学の専門の人に相談するのが当然です。やはり一人で研究していると視野狭窄になってしまうようですね。結果として悪魔学博士の協力で悪魔を捕らえることができました。悪魔の中には触れることはおろか、普通の人には見えないものも数多くいるそうで、マクスウェルの悪魔を見ることができた僕には素質があると言われました。ま、これは後日の話です。

 また、先生が飛んで行った時の話を詳しくすると、パンツ博士は、先生は公転において行かれたのではないと言いました。時期的、時間的に真上に飛んで行くのはおかしいと言うのです。では先生はいったい?と問うと、「我々は自転する宇宙に住んでいるんじゃよ」と言います。パンツ博士が言うには、宇宙自体も自転しており、先生はその宇宙の自転において行かれたのだろうとのことです。しかし、いつ頃戻ってくるかはパンツ博士にもわからない様子で、へたをすると数億年経っても戻らない可能性があるが、あいつは実践空想学博士だから自分で何とかするだろうと適当なことを言って帰って行きました。

 数日後、マクスウェルの悪魔を捕獲して研究も一段落ついた僕が、久々に先生の研究室まで来ると、なんと、半壊していた部屋がすっかり元通りになっているではありませんか。さらに奥の部屋から「うぅふふふふぅ」と得体の知れない笑い声がします。慌てて奥の部屋へのドアを開けると、先生と何やら青い物体が……。青い物体は部屋の真ん中に置いてあったドアに吸い込まれ、そのドアも消えてしまいました。
「あ、あの、先生、今のはいったい……、あ、いや、よくご無事で……」
「うむ、今帰った」
「は、はい」
「さっきのは私の友人だ。危ういところを助けられてな。ついでに研究室も直してもらった」
「はあ、そうですか……」

 あまり心配はしていませんでしたが、ここまであっさりと帰ってこられると拍子抜けです。一度ぐらいは先生の困ったところも見てみたいものです。

 それじゃあみなさん、科学する心を忘れずにいて下さいね。


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