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スミレ博士の研究室 - [第十八回]

ヤマンバギャルの秘密

 トゥルルルル、トゥルルルル、トゥルル……ガチャ
お姉さん「は〜い、こんにちわ〜。こちらは子供電話相談室で〜す」
少年「あ、あの、こんにちわ」
お姉さん「はいこんにちわ〜。今日は一体どんな質問があるのかな〜?」
少年「あの、僕夏休みの自由研究をまだやってなくて、それで何にしようか考えてたんですけど、前から気になって……」
お姉さん「んなこた聞いてねえんだよ」
少年「え?」
お姉さん「誰がてめえの状況説明しろっつったんだ、あぁん!? こちとらデートすっぽかされても明るく元気なお姉さんを演じなきゃならねえってのにてめえはなんなんだコラ。我慢の限界ってもんがあんだよ。余計な事言ってねえでさっさと質問しろや。なあコラ」
少年「……………」
お姉さん「あらぁ? どうしたのかなぁ? ちゃんと質問してくれないとお姉さん困っちゃうゾ?
少年「……ヤマンバギャルってどうしてあんな奇妙奇天烈なメイクをしているのかが知りたいんですけど」
お姉さん「んなこた知らねぇよ。本人に聞いてみろや」
少年「……………」
??「あ〜コラコラ、テマリくん。そんな言い方はないだろう」
お姉さん「博士〜、だってだって、あれからずっと彼と連絡が取れないんです〜。きっと私の身体が目当てだったんですよぅ。弄ばれて用が済んだらポイだなんて、酷過ぎる〜〜」
??「まあまあ落ち着きなさい。連絡が取れないのは何か事情があるからかもしれないだろう? まあなんだ、もし君の言うように非道な男だとしてもちゃんと始末してあげるから。な?」
お姉さん「ううっ、ひっくひっく、う、う、うわ〜〜〜〜ん!!」
??「ふぅ。しょうがないなまったく。おーい、ヒデ丸くん、ちょっと彼女を休ませてやってくれ」
??「ハイ、博士」
??「……………うわーんうわーん……テマリさん、奥で休みましょう?……お、奥の部屋で私を手込めにするつもりなのねっ!?……て、手込め!? そんなことはしませんよ……嘘よぉおお! みんな最初は何もしないって言うのよぉおお!……まいったなぁ落ち着いてくださいよ……近寄らないでぇえ!……しょうがない……うりゃっ!!……はぐっ!……ドサッ!……あ、君、ちょっと手伝ってくれる?……ズルズルズルズル……ギィ〜〜バタン!…………」
??「さあ少年よ!」
少年「うわっ!」
??「少しバタバタしてしまってすまんな。私が君の質問に答えよう。私のことは博士と呼んでくれたまえ」
少年「は、はい……」
博士「学研の秘密シリーズの博士みたいで嘘くさくていいだろう? はっはっはっはっは」
少年「は、はぁ……」
博士「まったくあのシリーズに出てくる博士というのは一体何者なんだろうなあ? ただ物知りで知り合いが多いだけのただのジジイだよなあ。はっはっはっはっは」
少年「………」
博士「おお、すまんすまん。ええと、ヤマンバギャルについてだったな」
少年「はい」
博士「なるほど、彼女らについて調べて、それを自由研究にしようというのだな?」
少年「そうです。……やっぱり変ですか?」
博士「いやいや、色々なことに興味を持つのは非常に良いことだよ。君はあの化粧をどう思うかな?」
少年「すごく……変だと思います」
博士「うむ、変だな。奇妙としか言いようがない。通常、化粧というのは女性が自分をより美しく見せるためにするものだ、と思うだろう?」
少年「はい」
博士「ところがな、化粧というのはそれだけではないのだよ。古来より、例えばシャーマン等も化粧をしていたが、これもやはり面妖な化粧でな。おっと、シャーマンというのはわかるかな?」
少年「なんとなく……漫画とかに出てくるから」
博士「そうか。彼らは神や精霊を受け入れる器なんだが、化粧をすることで他の者とは違う、特別な存在だということを示しているんだよ」
少年「特別……」
博士「そう、特別だということを示す、つまりは化粧にはそれを見る者に対するある種のメッセージが込められてるということだな」
少年「メッセージ、ですか?」
博士「そう。現代の女性の化粧であれば、自分は美しいのだということを伝えたいのだろうし、ピエロの化粧をすれば道化であることが一目でわかる。戦士の化粧は、戦士が自分の命をかけて戦うという意志を表しているのだな」
少年「は、はぁ……」
博士「難しく考えることはないのだよ。話をヤマンバに絞ろうか。山姥やまんばというのは妖怪の名前だというのは知っているかな?」
少年「えっ、そうなんですか?」
博士「山姥というのはだね、老婆の姿をした妖怪なのだよ。ヤマンバギャルのあの面妖な化粧から山姥を連想したのだろうねえ」
少年「へぇ〜」
博士「君は彼女らを見てどう感じるかね? どういったメッセージが込められていると思う?」
少年「よく……わかりません。だって、ただ不気味にしか思えないし」
博士「そう、それが正解だ
少年「ええっ?」
博士「つまり、妖怪と見まごうばかりのメイクによって他人を威嚇しているわけだ。もちろん、ただ無意味に威嚇しているのではない。あれはね、彼女らがストリートファイターであることの証なのだよ」
少年「えええー!?」
博士「皆一様に同じようなメイクをすることで個を殺し、ただ戦うことのみが自分という存在を確認する唯一の術であると考えているのだね。そのためにこそああいったメイクをして、自分は戦いを求めていると他人にメッセージを送っているのさ」
少年「そんなこと知りませんでした……」
博士「はっはっは、まあそうだろうね。戦いを求めている者同士にならすぐにわかるんだが、普通は知らないことだからね。どうだい、勉強になったろう?」
少年「はい、すごく勉強になりました」
博士「もし君が腕に自信があるのなら、街中でヤマンバギャルを見掛けた際には問答無用で殴り掛かるといい。戦いの化粧をしている以上、不意打ちが卑怯などとは死んでも言わないはずさ。まあ死んだら何も言えないんだがね」
少年「え……でも僕は喧嘩なんてしたことないから……」
博士「そうか。ま、慌てることはない。腕を磨いてから挑戦すればいい。だがね、今、つまり2000年現在でこそヤマンバギャルとして活動しているが、彼女らがいつまでもヤマンバギャルなわけじゃあない。時代が変わればまた違う化粧や服装でもって戦士であることを示すのさ」
少年「そうなんですか」
博士「うむ。だから、ストリートファイターというのは常に神経を張り巡らせて自分の相手を探しているんだよ。ヤマンバギャルの化粧をしたストリートファイターと戦えるのもあと数年かもしれないな」
少年「なるほど……」
博士「質問への答えはこんなところかな。これで充分かな?」
少年「はい! わかりやすく説明してくれてありがとうございました!」
博士「いやいや、未来ある少年に知識を与えるのが私の仕事だからね」
少年「本当にありがとうございました。それじゃあ……」
博士「おっと、ちょっと待ちたまえ」
少年「はい?」
博士「いつまでも、科学する心を忘れんようにな。ではさらばだ少年!!」
 ガチャ
 ツー、ツー、ツー…………


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