やあやあみなさん、本当にお久しぶりですね。何だか毎回久しぶりとか言ってて自分でも嫌になるくらいですよ。はっはっは。
そうそう、例の映画『ヒットラーの復活』は観ましたか? 主人公のあの華麗なワイヤーアクションには惚れ惚れしますよね。ヒュガキヒュガキヒュガキッって。あの最後の武器を主人公に渡さずに、「俺がやってやるぜ」とか抜かしていたヤツには何の意味があったんでしょうねぇ。その辺は演出ってやつですか。
さて、しばらくみなさんにお会い出来なかった理由はですね、大学で時空跳躍概論という講義をしていたからなんです。いやぁ、将来タイムパトロールになりたいという学生が多い所為で、受講が抽選になったりと色々ありました。タイムパトロール(以後TPと称する)は非常にキツイ仕事ですが、隊員たちは誇りを持って仕事をしてますからね。やはり若い人たちはそういう所に憧れるんでしょうね。ま、テキトーに仕事をしてるような隊員はTP本部に存在自体を消され……げほげほっ! ……今のは聞かなかった事にしてください。
みなさんはTPをもちろんご存知ですね? TPの仕事は大きく分けると二つあります。一つは、不幸な死に方をしていて、なおかつ歴史に影響しないような人物を厳重に調査して、歴史への干渉を最低限にして(些細な干渉であるかどうかは関係しません。現在の状況が崩れるような影響を与えない事が重要であり、TPではそれを「歴史への影響」と呼んでいるのです)その人物を救う事。非常に地味で報われない仕事のように思われますが、ちゃんとこういう仕事をしていないと世間の目が冷たくなりますからね。で、二つ目の仕事は、所謂時間犯罪者を捕らえることです。時間犯罪というのは、過去に遡り歴史を変えようとする事です。最悪の場合、我々人類が未来において消滅してしまうこともあるので非常に重要な仕事です。時間犯罪は非常に重い罪だとされ、その内容によっては極刑が科せられることがあります。もちろん死刑だなんて野蛮なことはしません。過去に遡り、その犯罪者が生まれないようにちょいと歴史を操作するだけです。つまり、存在自体を抹消してしまうんですね。これは色々な所から廃止を訴える声が出ているのですが、TP本部の発表ではまだ存在抹消までされた時間犯罪者はいないということになっています。それもそのはず、存在を抹消してしまえば、唯一時間を超える術について日夜研究を重ねているTP(というか、TP直属の研究機関)以外にはその人物に関する記録は一切残らないのですから。私は立場上TP本部と繋がりが深いので色々と教えてもらいましたが、そうでなければ実際には時間犯罪者はバンバン消されているという事はわかりようがないのです。
時間を超える術を持つというのは、同時に歴史の崩壊の危険を孕みます。そこで上記のような組織、つまりTPが誕生したのです。よって、時空跳躍概論の最後にはTPについて語ります。いつもはそれで終わるのですが、今回の講義の最後に、一人の学生から質問がありました。
「ドラえもんは歴史を変えようとしているが、何故TPは黙認しているのか」
その学生はTPに生涯を捧げると公言してはばからないとの事で、強い使命感からそのような質問が出たのでしょう。そこで、私は逆にその学生に何故だと思うか尋ねてみたのです。すると、その学生は自分にはTPの怠慢だとしか思えない、自分が必ずや奴を捕らえてみせると言うのです。これには困りました。これでは、子供たちの夢だから黙認されているなどは答えられませんし、実際どうしてなのか私も知らなかったからです。そこで私は、受講者全員に「何故ドラえもんはTPに黙認されているのか」について、自分の考えをレポートにして提出するように求めたのです。何か気の利いた内容のものがあれば、それで例の学生を説得しようと思ったのです。
提出されたレポートは、人のを写した物が大半だったのか、あまり多くの意見は見られませんでした。大別すると二つの意見があり、「ドラえもんが歴史を変えることこそが歴史の必然である」というものと「放っておいても大した影響はない」という物でした。
必然であるという意見は恐らく人が書かないような斬新な意見を書いて評価を上げてもらおうという意図で書かれたのでしょう。今現在も野比家の末裔が生きていますが、どうということもない一市民です。もちろん未来についてはわかりませんが、後述するように未来を知ることは出来ませんので、これが理由であるということはあり得ないのです。
大した影響がない、という意見はなかなかに説得力がありました。というか、恐らくこれが事実なのでしょう。この意見は更に二つに分けられます。一つはのび太の将来が少し変わる程度では歴史には影響しないというものでした。つまり、のび太の子孫が歴史に関わる事はないということです。これはどうでしょうか。現在の時空跳躍技術では、TP本部のある現在から未来に行くことは出来ても、その未来から戻ることは出来ないとされています。ですから、将来に渡ってのび太の子孫が歴史に関わらないとは断言出来ないはずです。私の知る限りでは、この時代より未来からは戻れないというのは事実ですので、これは違うと思います。もう一つは、ドラえもんがいかに努力してものび太の将来を変えることは出来ないというものです。結局のび太はジャイ子と結婚し、就職も出来ず、就職出来ないから自分で作った会社も火事で焼けてしまい、何代も後の子孫にまで残る借金を作ることになるのです。私の考えではこれが一番真実に近いのではないかと思います。
しかし、しかしです。何故か機密扱いになっている野比家について私が独自に調べた所、のび太はしずかちゃんと結婚していたようなのです。これはどういうことでしょうか。困り果てた私が助手のヒデ丸君の研究を邪魔して遊んでいると、ヒデ丸君がこう言いました。
「先生は確か彼と友達でしたよね? 直接聞けばいいじゃないですか」
一体どういうことかと尋ねてみると、なんと、私の友人であるあの青い彼がドラえもんだと言うではありませんか! 似てるとは思っていましたが、まさか本人であったとは。意外な盲点でした。
さっそく私は彼を訪ね、何故TPは君の行動を黙認しているのか、と尋ねました。すると彼は急にゴルゴ13並みに渋い顔つきになり、
「余計な詮索はしねぇほうが身のためだぜ」
と言って遠くを見つめました。どうやら、何か聞いてはいけない理由があるようです。誰しも人には言えない何かがあるものなので、私はそれ以上聞くことが出来ませんでした。
彼について調べるのはやめにした私ですが、例の熱血な彼についてどうするか私は悩みました。今のままではきっと、彼はTPに入ってドラえもんを捕らえるべく動きだすでしょう。ドラえもんにも相談してみたのですが、
「そいつはとめた方がいいな。俺に関わってTPに消されたヤツは二桁じゃきかねえぜ」
と言うのです。このままでは彼はTP本部に消されてしまいます。ああ、私は一体どう言って彼を説得すればいいのでしょうか。私はこれから何とか彼を説得する方法を考えることにします。みなさんも、私が彼を何とか説得出来る様に、また、彼がTPに消されないように祈っていて下さい。
それではみなさん、科学する心を忘れずに。