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スミレ博士の研究室 - [第六回]

マッハで静止する男

 みなさん、はじめまして。僕はスミレ博士の助手でヒデ丸といいます。今回は後に述べる事情により先生が居りませんので、代わりに僕がお話したいと思います。

 前回予告した「マッハで静止する男」ですが、前回の時点ではそのような男がいるということしかわかってなかったので、先生と僕は本人に直接会いに行くことにしました。僕たちが彼の下宿の前まで来た時、下宿の一角が吹っ飛んで凄まじい衝撃波が襲ってきました。
「何事でしょうか、先生」
「うむ、人が飛んでいったようだな」
「えっ?」
 僕はまったく気づきませんでした。
「もしかしてですか?」
「そのようだ。座った状態で飛んで行ったのだな。膝を抱えた格好だった」
「はあ、でも静止というのはどういうことでしょうか」
 飛んで行ったのなら静止はしていないんじゃあ……。
「おそらく彼は地球の自転に対して静止しているのだろう」
「……?」
「わからんかね?」
「いえ、それもですが、先生は天動説を支持してましたよね?」
「ヒデ丸君、研究者たるものは一つの考えに固執していてはいかんのだよ」
 なるほど。また一つ勉強になりました。
 下宿の住人で、少女漫画家だという筋肉質の学ラン男の話では、彼は回りから無視されて非常に落ち込むと、ついには地球の自転にも置いていかれてしまうのだそうです。

 数日後、先生は僕に空間固定ベルトなるものを見せてくれました。
「これを使うとだね、空間に体を固定することができるのだよ」
「先生もマッハで静止するんですね」
「うむ、あんな非常識な男に我が実践空想学が負けてなるものか」
 どれ、早速試してみようと言ってベルトを腰に巻くと、先生はスイッチを入れました。




 その後のことはよく覚えていません。気がつくと、すでに研究室は半壊しており、先生の姿はありませんでした。部屋の壊れ具合からして、どうも上に向かって飛んでいったようです。自転において行かれたんだったら地面と平行に飛ばなければ変です。そこで僕は一つの仮説を立てました。あの彼が自転において行かれて飛んだのに対し、先生は公転において行かれたのだろうと。
 先生との一年後の再会を願って僕は研究を続けることにします。

 それじゃあみなさん、科学する心を忘れずにいて下さいね。


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