[MainPage] [Back]

獄中のポエム師 - [死]


誰も来ない暗がりで
坊主は女性を弄び
止めを刺して
「南無阿弥陀仏」

女性を襲う坊主を見つけ
坊主の背後に忍びより
鉄パイプで一撃すると
坊主は倒れてうめき出す

「いつもの言葉を言ってみろ」

しかし坊主は喚き出し
ついでに女性は泣き叫ぶ

鉄パイプを振り上げて
何も言わずに
坊主の頭に振り下ろす

叫ぶ女性を弄び
止めを刺して
「南無阿弥陀仏」


伸ばした手に触れるものは何か

親愛なる者の暖かな掌か
燦然と輝く眩き光か

淀んだ空気の満ちた暗闇に伸ばされた手には
わずかな月明かりさえ掴むことは出来ぬ

見よ

おまえの手は鮮血に染まり
その生命の残滓は永遠に拭い切れぬ

憧れつつも見ることの適わぬ太陽の光を求め
棺から伸ばしたその青白い手には
何も掴めはしないのだ


月夜の晩に墓を掘り起こし
未だ奇麗な君の身体を
月の光に当ててあげよう

その青白い肌が月に照らされ
とても奇麗に見えるだろう

とっておきのワインも開けて
君の好きな歌など歌って
朝まで二人で一緒に過ごそう

太陽に照らされたなら
君はただの死体になるから

朝が来たら僕は一人で
死体に着せるドレスを選ぼう


草原に寝転んで
君と二人で見上げた空には
一羽の鳥が輪を描く

鳥になりたいと言う君には
僕の言葉など届かない

ビルの窓越しに
君と二人で見下ろした地表には
砂粒のような人が歩く

鳥になりたいと言う君には
僕の気持ちなど届かない

屋上に一人立つ君は
僕を振り返りもせずに
「鳥になりたい」
と言った

僕は風に押されるように
ゆっくりと君に近づき
風をはらんだスカートが
君の姿を隠した瞬間
そっと華奢な背中を押した

静止した時間の中で
君と僕とは見つめ合い
動きだした時間の中で
白い足が消えてゆく

くうるりくうるり輪を描く
一羽の鳥が太陽に焼かれ
地に落ちる前に燃え尽きた


美しい娘を拾った。
名を聞くと言えぬと言う。
事情があるのかと問うと、人間には発音出来ぬのだと言う。
それでは何者かと問うと、天使であると言う。
白い翼はどうしたのかと問うと、見せられぬと言う。
何か人間には出来ぬことをしてみせろと言うと、やはり出来ぬと言う。

帰る場所がないと言うので、私は娘をしばらく家に置いてやることにした。

娘は世間知らずだった。
当然家事など何も出来ぬ。
日がな一日ぼおっと空を見て過ごしている。
私の邪魔をするわけではないので放っておいた。

時折私が質問をする。
娘は答えられぬと言う。

時折私が用事を頼む。
娘は出来ぬと言う。

毎日毎日、娘は空を眺めている。

ある日私が今までどうやって生きて来たのかと問うと、天界にて神に仕えていたと言う。
神について詳しく聞くと、これも答えられぬと言う。
重要な事は何も答えられぬが、自分は天使であると言う。

そうして幾日が経過したのか、さすがに私も飽いてきた。

私は娘に、天使であることを証明出来なければ出ていってもらうと告げた。
娘は空を見つめる視線を動かさずに、出来ませぬと言った。
ならば出て行けと言うと、出来ませぬと言う。

私はぴくりともせぬ娘の長い黒髪を見つめている。

娘の体は羽の欠片になって消えた。
娘の味は人間と変わらなかった。
私は娘の顔に血が付いているのを見てそれを拭き取った。
血を拭き取られながらも、娘の首はやはり空を眺めていた。
その瞳に何が映っているのか確かめようとしたが、そこには私の顔が映っているだけだった。


陽炎の人が
ゆらり、ゆらり
視界の中で笑っている

その笑いは
横に歪み
縦に歪み

その笑いが口惜しいから
文句の一つも言ってやろう

無数の気泡が
ごぼり、ごぼり
出口を求めて競い合う

この限られた空間を
一瞬でも早く逃れようと
のぼってのぼって
はじけて消えて行く

自分の声か
陽炎の声か

こもった音が
近くのようにも
遠くのようにも
聞こえてくる

歪んだ光が薄くなり
視界がだんだん暗くなる頃

最後の泡が
ゆるり、ゆるり
陽炎めがけてのぼってゆき

陽炎の人が
波紋のように広がって

歪んで消えた


淡い光が
暗黒のこの地に
ゆっくりと
ゆっくりと舞い下りる

白い呼気が
光の散る暗黒に
ゆっくりと
ゆっくりと溶けてゆく

国道を走る
遠いざわめきが
静寂を許さない

けれど

ここは静寂な世界

夜気を切り裂く女性の悲鳴も
この世界を揺るがせはしない

ぽつりと灯る街灯の下
横たわる白い身体は
己の命で身を染めている

その白い白い腕を
ゆっくりと伸ばして
濡れた硝子玉で
僕を見詰めている

淡い光が
暗黒のこの地に
ゆっくりと
ゆっくりと舞い下りる

白い呼気が
光の散る暗黒に
ゆっくりと
ゆっくりと溶けてゆく

そのうちに

白い腕が
すとんと落ちて

小さく、震えた


まあるいまあるい
お月様

意外としぶとい
母を突き刺し
家の中は血塗れで
玄関脇の兄を乗り越え
冷たい空気が出迎える

犬の遠吠え
暗い街灯
遠くを走る車の音が
血で汚れたコートに包まれ
月の明かりを頼りに歩く

ポッケの中の汚れた刃物が
背後に近づく自転車の音
刃物を振るって
夜を切り裂くブレーキ音に
倒れる自転車真っ赤に染めて

あがる悲鳴に
街灯の下の女性の姿
私と同じ年頃の
振り返ると脅えた瞳で

もしもあなたが処女ならば
月の女神に仕えてもらうわ
その存在を永遠にして

再びあがった悲鳴は途切れ
後には静かな月の夜

まあるいまあるい
お月様

朱に染まった
狂気の月


どうしたものか
目覚めると 目の前に一つの死体

山の中で埋めようか
川にでも捨てようか

どうしたものか
扉を開けると 目の前に一つの死体

見なかったことにしようか
忘れてしまおうか

とりあえず 部屋の隅に積んでおこう

どうしたものか
悩むうちに睡魔が襲い
意識は深い闇の中

どうしたものか
目覚めると 目の前に新たな死体
扉を開けると 目の前に新たな死体

とりあえず 部屋の隅に積んでおこう

どうしたものか
部屋の中がいっぱいになったら

それはその時考えよう


太陽を見たい

日の光のささぬ暗闇を抜け出して
冷たい石壁の外に出たい

風を感じたい

よどんだ空気から逃れて
冷たい石壁の外に出たい

鳥の声を聞きたい

物音一つしない世界を飛び出して
冷たい石壁の外に出たい

石壁が開くのは束の間
闇の中の苦痛の時間

待ち続けても
待ち続けても

まだ 朝は来ない


赤い鳥よ、赤い鳥

何故に
我が手を振り払い
空を目指すのか

何故に
朱に染まった自由な翼を
力の限りはばたかせるのか

何故に
尽きかけた炎を
燃え立たせようとするのか

何故に


見えない見えない赤い糸
心の中に隠された

探し続けて日が過ぎて
捜し求める運命の人

いつしか忘れた赤い糸
いつしかつまらぬ恋をして

刺された傷から流れる赤が
つうと描く一本の糸

心の中に隠された
見えない見えない赤い糸


白いくびすじ月光に
照らされ浮かび 誘うよう

冷たく鋭い刃が光る

闇の通りに響く足音
遠くに聞こえる犬の遠吠え
静かに脈打つ胸の音

冷たく鋭い刃が滑る

赤いはなびら月光に
照らされ浮かび 夢のよう


籠の中には
羽をもがれた一羽の鳥と
失われた過去の残滓と

部屋の中には
羽をもいだ一人の男と
奪い取った過去の証と

始めは暴れた飛ぶ鳥も
今では諦め飛ばぬ鳥

羽をもいだその日から
飛べぬ鳥は男のペット

鳥の壊れたその日から
飛ばぬ鳥は男の玩具

どんなに激しく弄んでも
口から漏れるは狂った嬌声

惚けた顔で飛ばぬ鳥
空を眺める飛べぬ鳥

飽きずに空を眺める鳥と
鳥に飽きた一人の男と

窓を開けた一人の男と
窓から消えた一羽の鳥と

空の窓から消えた鳥
翼を持たぬ飛べぬ鳥

大空には
風にのって飛ぶ鳥と
自由にはばたき飛ぶ鳥と

地面には
無常に行き交う鳥達と
羽をもがれた一羽の鳥と


首をくくろうと入った山奥で
首を吊った男の死体と
すぐそばに捨てられた
少女の人形を見つけた

その人形は驚くほど美しく
首をくくるのを忘れて見入っていた

どうやったら
こんなに美しい人形が作れるのか

山を下り
全能力を傾けて
少女の人形を作り始めた

理想の少女を求めて毎日毎日さまよった

だが
いつまでたってもみつからず
失敗作ばかりが溢れた

この辺りに人さらいが出ると
テレビで言っていたが
そんなものに脅えてはいられなかった

ある日
とうとう理想の少女を見つけた

すぐに人形を作ったが
どうしてもあの人形にはかなわなかった

黒い服の人がうろつき始めたので
しかたなく
夜更けに少女の人形と山に入った

あの人形を探したが
それはすでに朽ちていた

もう
直接比べる事は出来ないが
明らかに自分の人形の方が
劣っているように思えた

少女の人形を置き去りに
結局人形師は首をくくった


塩が足りない

君も君も君も君も君も君も君も

塩が足りない

いつもいつも
期待に胸を膨らませて
君のお腹をかっさばくけど

塩が足りない

いつもいつも
期待に胸を膨らませて
君のはらわたを喰らうけど

塩が足りない

君も君も君も君も君も君も君も

塩が足りない

こんなに君を愛しているのに

君も君も君も君も君も君も君も

塩が足りない

いつか理想の人に
出会えるのを
夢見ているけど

塩が足りないんだ

今度からは
塩を持って
君に会いに行こうね

君も君も君も君も君も君も君も

塩が足りないから


[MainPage] [Back]