18. Qubesを使ってみたッス
ボブ :兄貴、今回のシナリオはどうッスか! 自信作ッスよ!
ジョニー:どらどら……ああ、確かに見栄えは大分良いようだな。
ボブ :そうッス! 俺もQubes使ってみたんスよ!
ジョニー:ふむ、
らたら氏のアレだな。最近はQubesを使う人も増えた、というかすでに定着してるからな。Qubesってのは、アスキーのRPGツクールなんかにある2Dマップのパーツみてえなもんで、実際そう目新しいもんじゃねえんだろうが、まさにコロンブスの卵ってヤツでな。CWで、ああいう形で利用出来るように提案したっつうのはやっぱすげえよな。感心するよ。
ボブ :感心しまくりッスよ。
ジョニー:そうだな。感心するだけじゃなくて感謝の気持ちも忘れねえようにな。
ボブ :当然ッス! ……それで兄貴、シナリオの方はどうッスか?
ジョニー:ちょっと待ってろ。今やるからよ。
ボブ :うぃッス。
ジョニー:…………。
ボブ :……(ドキドキ)
ジョニー:…………。
ボブ :ど、どうッスかね?
ジョニー:う〜ん……
ボブ :な、なんなんスか?
ジョニー:いやな、こんなシナリオに利用されるんじゃ、Qubesがもったいねえなあと思ってよ。
ボブ :な、なんでッスかぁ!?
ジョニー:背景にQubesを利用したことによって、今まで問題だったNPCとの中身のない会話が余計安っぽく思えるし、Qubesダンジョンも移動のかったるさを助長して広いダンジョンを余計に広く感じさせてくれて最高だよな。
ボブ :…………。
ジョニー:つまりよ、見栄えだけ良くなったって、中身がクソじゃあどうしようもねえってことだな。
ボブ :なんスか! それじゃ見栄えはいいけどシナリオはつまらないって言うんスか!!
ジョニー:つまらないとは言ってねえよ。クソだって言ってんのさ。
ボブ :クポポー!
ジョニー:なあボブ、なんでこれがおまえの自信作なんだ?
ボブ :なんでって、そりゃあ……自信があるからッスよ。
ジョニー:だからその自信の根拠を聞いてんだよ。まあおめえのこったから、どうせシナリオを完成させた興奮で自信満々に思ってんだろうけどよ。確かにこのシナリオはよ、今までのおまえのシナリオに比べて見栄えはかなり良くなってるよな。
ボブ :なんスか、良くなってるんじゃないスか!
ジョニー:見栄えはな。見栄えが良くなることと、ゲームとして良くなることと、何の関係があるんだ?
ボブ :何のって、そりゃあ見た目が悪いよりはいいじゃないッスか。
ジョニー:それはそうだな。俺も見栄えが良くなるのがいけねえとは言わねえ。
ボブ :じゃあ何が問題なんスか!
ジョニー:内容が伴ってねえのが問題なんだよ。見栄えが良けりゃ中身はどうでもいいなんざ、三流ギャルゲーじゃねえんだからよ、通用しねえんだよ。大体よ、おめえは見栄えが良けりゃそれでいいのか? シナリオの感想で、「Qubesの背景が素晴らしかったです」とか言われて嬉しいのか? おまえが作ってるのはなんなんだ? ゲームじゃねえのかよ。絵を見せたいだけなら絵を描いて公開すりゃいいじゃねえかよ。なんでゲームにする必要がある? おまえの魂はどこにあるんだ? 言ってみろコラァ!
ボブ :うひぃ! そんな魂とか言われてもわからないッスよ。
ジョニー:チッ、しょうがねえ野郎だな。いいか、Qubesってのはな、いかに優れていても、しょせんは道具なんだよ。CWエディタと同じだ。それをいかに使うか、いかに役立てるかが問題なんじゃねえのか。Qubesを使うだけで良いシナリオになるなんてことはねえんだ。おまえが”ゲーム”を作るにあたって、必要があれば適宜使えばいいんだ。それを意味もなく無闇やたらに使って、自信作だなんて言われた日にゃあ、俺ぁもう情けなくて涙も出やしねえよ。
ボブ :じゃあ有効なQubesの使い方ってどういうことなんスか?
ジョニー:知るかぁ! んなもん自分で考えろ!
ボブ :そんな、無責任ッスよ兄貴!
ジョニー:無責任だぁ!? おまえには作者としての誇りはねえのかよ!
ボブ :ないッス。
ジョニー:…………。
ボブ :これっぽっちもないッス。
ジョニー:……おまえに少しでも期待した俺が馬鹿だったってことか。
ボブ :そうッス。だから教えて欲しいッス。
ジョニー:ふぅ、今日も空が青いよなあ……。
ボブ :外は雪ッスよ。
ジョニー:少しぐらい現実逃避させてくれよ。意外と性格腐ってるよな、おまえ。まあいい、わかったよ、しょがねえなもう。
ボブ :メモの用意はバッチリッスよ。
ジョニー:へいへい。そうさなあ、Qubesの利用についてかぁ……。そんじゃ、通常の屋内を描写する場合と、屋内や洞窟や森だのに限らず、ダンジョンを描写する場合について考えてみるか。
ボブ :考えるッス。
ジョニー:じゃあまず屋内だが、例えば依頼人の家を訪ねた際のことを考えてみろ。背景が何もないとかMapOfWirth.BMPのままっつう場合を除いて、大抵は依頼人の家の中が写真(CG)背景かQubes背景になってるだろ。でもって、おまえのシナリオはQubesになってたな。ありゃ何故だ?
ボブ :そりゃあ当然Qubesの方が見栄えがいいからッスよ。
ジョニー:じゃあ写真背景はもういらねえか?
ボブ :Qubesで表現できないような場面は別ッスけど、Qubesでいい場面は全部Qubesにしたらいいんじゃないッスかね?
ジョニー:まずおまえはそこから間違ってんだ。
ボブ :クポゥ?
ジョニー:写真とQubesにはよ、それぞれメリットとデメリットがあるんだ。それをまず知らなくちゃならねえ。おまえはQubesがお気に入りのようだからよ、Qubesのメリットを挙げてみな。
ボブ :ええと……、色々自分で組み合わせて使えるッスから、ある程度自分の思い通りの画像を簡単に作れるってことッスかね? なんかそのまんまって感じッスけど。
ジョニー:そのまんまだろうがなんだろうが、事実は事実さ。おまえの言ったことは正しいよ。そんじゃ写真のメリットってななんだ?
ボブ :写真ッスかぁ? う〜んう〜ん……。
ジョニー:わからねえか。それじゃあよ、写真とQubesを比較して考えてみたらどうだ? 比較した上で双方のメリットデメリットについて考えてみな。
ボブ :う〜ん、イメージピッタリの写真があれば、わざわざQubesで作らなくてもいいから楽だとか?
ジョニー:ハハッ、なるほど。そいつぁ俺も気がつかなかったな。それじゃそれもメリットとしておこう。他には?
ボブ :わからないッスよぉ。
ジョニー:そうかい。あのな、まずQubesってのはよ、おまえが言ったように見栄えが良いってのもあるんだが、それよりも重要なのは、プレイヤに想像の余地を与えずにかなり直観的に視覚情報を与えることが出来るんだな。それに対して写真ってのはよ、大抵はそこらの素材を使ってるだろ? だからプレイヤとしても、なるべくイメージに近いものを使ってるんだなっつう認識があるから、あくまでもイメージ画像として捉えるんだな。文章表現と写真表現を比べる場合と違って、この場合は写真背景の方が想像の余地を残してあるんだな。これらは双方のメリットであり、同時にデメリットでもあるわけだ。
ボブ :よくわからないッスよ。
ジョニー:そんじゃ依頼人の家に入ったときのことを考えてみな。家の中が例えばよく使われる暖炉の写真背景だったとしよう。文章で詳しく説明しない限り、それを見たプレイヤとしては、狭い家で暖炉がある中央の一室に通されたんだろうとか、暖炉のある居間に通されたんだろうとか、まあ曖昧ながらも想像するわけだ。
ボブ :それじゃ状況がよくわからないじゃないッスか。
ジョニー:その通りだ。だが、依頼人の家の構造や調度なんかがそんなに大事なのか? もちろんシナリオの内容によっては重要な場合もあるだろうが、んなことどうでもいい場合が多いだろう。そんなときには、イメージ画像を表示させておけば、プレイヤが勝手に想像して補完してくれるのさ。ジャンルにもよるが、ゲームってのはやっぱ想像力が大事だからな。
ボブ :それじゃQubesの場合はどうなんスか?
ジョニー:それも説明すんのかよ。まあいい。依頼人の家の中、例えば案内された応接間辺りがQubesで表現されていたとしよう。暖炉があり、テーブルがあり、椅子があり、もしかしたら絵が飾ってあるかもしれんし、高価そうな陶器でも置いてあるかもしれん。それを見るだけで良く出来た箱庭を見せられるように直観的に色々な情報が伝わるわけだ。そこには想像の余地なんぞほとんどない。
ボブ :いいじゃないッスか。
ジョニー:悪かねえよ。だが、そこまで明確なイメージを伝える必要が果たしてあるのかどうか、これを良く考えなきゃいけねえ。なんたって写真をちょいと一枚表示するのに比べたら、どうしたって手間がかかるだろう? そこまで手間をかけるだけの理由があるのか? そんなことに費やすならもっと他をいじったらどうだってことにならねえか?
ボブ :な、ならないッスよ! それは兄貴が嫌う手抜きじゃないッスか!
ジョニー:おいおい、俺はうまく手を抜くのも技術の一つだって言ったはずだぜ。まあそりゃいいよ。手を抜くためだけにQubesを使わないなんて思われちゃあ困るからな。とにかくだな、Qubesを使うと、さっき言ったように直観的に明確なイメージを伝えることになるわけだが、それがシナリオ上有用ならどんどんやればいいのさ。
ボブ :どんなシナリオだって有用じゃないんスか?
ジョニー:そんなこたねえだろ。不要な情報を与え過ぎるとシナリオのメインとする部分がぼやけちまうじゃねえか。まあ内容によっては逆にそれを狙うってのもあるだろうがな。それに、QubesにはQubes独特の雰囲気っつうものがある。もちろんQubesったって利用する素材によってそれぞれだが、Qubesではどうしてもうまく伝えられない雰囲気っつうのもあるだろうよ。あとはそうさな、文章表現に重きを置いている場合、文章とQubesから受けるイメージが異なって違和感を感じさせちまうことだってあるんだ。なんつうかよ、Qubesは良くも悪くも箱庭的なイメージが付きまとうんでな、考えなしに使いまくるのはどうかと思うぜ。
ボブ :じゃあQubesはどういうときに使ったらいいんスか?
ジョニー:そりゃおめえ、シナリオ上部屋の様子を細かく伝えたい場合、文章でももちろんいいが、Qubes使えば一発だろ。やっぱなんだかんだいっても視覚情報ってのは強烈だからな。部屋の調度によって依頼人の格がわかる場合もあるしよ。他にもシナリオ上の仕掛け(謎)にからむ物が部屋にあったりする場合、さりげなく見せるにはQubes使うといいんじゃねえかと思うぜ。さっきQubesには独特の雰囲気があるっつったけどよ、それを利用して、全編にQubesを利用することで、全体を通してある種の雰囲気を感じさせるっつうことも可能だろうな。
ボブ :わかったようなよくわからないような……。
ジョニー:要するに使いどころをよく考えろってことさ。本当にQubesが必要なのかよく考えて、必要だってんならどんどん使えばいい。必要ねえなら使うこたねえ。ただそれだけのことだよ。
ボブ :う〜ん……。
ジョニー:次行くぞ次。
ボブ :う、うぃッス。
ジョニー:次はQubesダンジョンだ。こいつがなあ、俺は嫌いなんだよな。
ボブ :どうしてッスか?
ジョニー:Qubesにはどうしても箱庭的なイメージが付きまとうんだよ。使い所によってはもちろんそれは良い方向に作用するんだが、単調でかつ広いダンジョンにおいてはマイナスになるんだな。描写出来る範囲が狭いからよ、1ブロックごと移動するのはいいとして、先が見えないもんだから余計にだだっ広く感じられるんだ。これはまあQubesでなくても大抵のダンジョンでは同じなんだが、Qubesではそれがさらに助長されて感じられるんだな。
ボブ :じゃあQubesでダンジョンを作るなってことッスか?
ジョニー:そうは言わねえよ。狭めのダンジョンならかなり有用じゃねえかな。
ボブ :でもせっかくだから広いダンジョンにしたいじゃないッスか。
ジョニー:おいおい、そりゃ大分以前にやめろっつっただろ? CWは広いダンジョンを歩きまわるのに都合が良いようには出来てねえんだよ。どうしても作るんなら自動マッピングされるマップ上のコマを動かすようにするとか、それなりに工夫してもらわねえとよ。何事にも向き不向きってのがあるんだ。おめえだってよ、例えばアスキーのRPGツクールで無理矢理作られた格闘アクションがあったとしたらどうする? それがよほど面白いんならともかく、操作はかったるく、動きがにぶく、挙句に二番煎じときたらプレイするか? するわきゃねえだろ。本来向いてねえことを無理矢理やろうってんなら、反論を抑えこむぐらいの出来にしてもらわなきゃよ。内容は面白くねえ、出来にも納得いかねえってんじゃ、どうしようもねえからな。
ボブ :(どうせ兄貴がダンジョン嫌いなだけに違いないッスよ。屁理屈こねられても騙されないッスよ)
ジョニー:ボブ、聞こえてるぞ。
ボブ :デ、デビルイヤー!?
ジョニー:ふぅ。同じこと繰り返すのは飽きちまうからダンジョンの広さについてはもういい。とにかくだな、広かろうが狭かろうが、Qubesでダンジョンを作るのなら、その特性を生かすべきだと思うわけよ。
ボブ :特性ッスか?
ジョニー:ああ。おめえが言ったヤツだよ。色々組み合わせることが出来るって言っただろ?
ボブ :言ったッス。
ジョニー:だったらそれをうまく利用しねえ手はねえだろうよ。いわゆるフラグダンジョンで、ずーっと同じ背景のまんまでだだっ広いダンジョンを歩かされてみろ、しまいにゃ自分がどこにいるのかもわからなくなっちまうじゃねえか。
ボブ :マッピングすればいいじゃないッスか。
ジョニー:マッピングをしてまでやりてえと思えるようなシナリオがあればいいけどよ、CWでそんなシナリオにゃ滅多にお目にかかれねえからな。ハズレの方が多いとわかってても必死こいてマッピングするやつなんてそうそういねえだろ。
ボブ :意外と面倒くさがりなんスね。
ジョニー:ほっとけ。でな、せっかくQubes使ってんだったら、要所要所に目印をつけたらいいんじゃねえかと思うわけよ。
ボブ :目印って、ペンキでバツマークでも書くんスか?
ジョニー:いや、別にそれでもいいけどよ。俺が言いたいのはだな、ダンジョン中の部屋なんかには凝るヤツが多いのに、何故通路も凝らないのかってことなんだよ。通路だって大事なダンジョンの一部だろ? 部屋毎に置いてあるものだのが違うんなら、通路だって壁が汚れてたり壊れてる場合もあるだろうし、森だったら木の種類がどうとか倒れている木があったりなかったり、他には樽だの木箱が置いてあったりとか、色々あってもいいじゃねえか。そういう表現が容易に出来るのもQubesの良いところなんじゃねえのかい。
ボブ :なるほど、それは面白そうッスね。
ジョニー:面白いかどうかはわからねえけどよ、そういった試みがもっと行われてもいいんじゃねえのかと思うんだな。あとはおめえがさっき言ったペンキってのもよさそうだな。さすがにペンキは普通持たねえだろうから、好きな場所で目印として壁に傷をつけることが出来るようにするとかな。そういった工夫をすると、一味違ったシナリオになるんじゃねえかと思うぜ。
ボブ :なるほど。勉強になったッス。結論としては、工夫をしつつガンガンQubesを使えってことッスね?
ジョニー:ちげえよ! 人の話聞いてんのかおめえはっ!!
ボブ :じゃあどういうことなんスかッ!!
ジョニー:逆切れされても困るわな。今の話メモってたんだろ? 後で読み返しておけ。
ボブ :ああ、途中で面倒になってメモ取るのやめたッス。
ジョニー:それじゃ意味ねえだろが! 今度から録音しとけぇええええ!!
ボブ :クポポポポー!