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駄作屋ボブの憂鬱

14. ゴブ洞を見直すんスか?
ジョニー:ゴブリンの洞窟ってシナリオがあるよな。なあボブ、おめえはあのシナリオをどう思う?
ボブ  :どうって、まあ入門用のシナリオッスよね。リューンを除いたら大抵の人はあのシナリオから始めるッスから。
ジョニー:じゃあ作者にとってはどうだ?
ボブ  :作者ッスか? ううん、まあごく簡単なことはあのシナリオから学べるかもしれないッスけど、他のシナリオの方がよっぽど参考になるんじゃないんスか?
ジョニー:そいつはなボブ、ゴブ洞を本当に理解した人間の言うセリフだぜ。おめえなんざはゴブ洞から勉強し直せ。
ボブ  :ば、馬鹿にしてるんスか兄貴!? ゴブ洞なんて大したことなんもやってないただの練習用シナリオみたいなもんじゃないッスか!
ジョニー:ああ馬鹿にしてるさ。プレイヤにはわかりにくいだろうが、作者として中身を解析すれば、CWとはどういうゲームかをよおく教えてくれるお手本として素晴らしく良くまとまったシナリオだぞ、ゴブ洞はよ。
ボブ  :そんな、ゴブ洞から学べる事なんてもう何もないッスよ。こう見えても俺だって何作かシナリオを発表してるシナリオ作者ッスよ。今更ゴブ洞から学ぶ事なんてないッスよ。
ジョニー:ほう、よく言った。それじゃこれから俺とゴブ洞について見直してみるか?
ボブ  :いいッスよ。俺がちゃんと理解してるってことを兄貴に教えてやるッスよ。
ジョニー:は! ホントにそうなれば嬉しいんだがな。さてと、まずは冒険者の宿のシーンだな。ここで注目すべき点はなんだ? 言ってみろ。
ボブ  :え? 注目って言ったって、普通のシーンじゃないッスか。まあ依頼人が出てこないのが特徴と言えば特徴かもしれないッスけど。
ジョニー:そう、普通のシーンだな。だがな、さっきおめえはこれが最初にプレイされるシナリオだって言ったじゃねえか。冒険者が「冒険者の宿」と呼ばれる宿にいて、依頼書を見て依頼を受けるか受けないかを自分で決めるという基本的なパターンを基本的として認識させるためには非常に重要なシーンなわけだ。
ボブ  :そ、それは言われなくたってわかってるッスよ。
ジョニー:そうかい。それでだ、ゴブ洞では親父から事情を聞いて、受ける場合には直接洞窟に行っちまって、依頼人から詳しく話を聞いたりしないな? これは何故だ?
ボブ  :何故って、ただの魔物退治じゃないッスか。別に詳しく聞いたりしなくても問題ないッスよ。
ジョニー:そうか? もしゴブリンが百匹とかいたらどうするんだ? ゴブリン以外の魔物が確認されていないかどうか気にならないか? 洞窟が広かったらどうする? もし構造を知っているなら教えてもらった方が都合が良くないか?
ボブ  :そ、そんなのいちいち聞いてたら面倒じゃないッスか。
ジョニー:五十点だな。以前TRPGの話をしたと思うが、TRPGでは依頼人から情報を聞き出すのもまた一つの楽しみなんだな。面倒だからって何も聞かずに出かけていって大変なことになった、なんてのは良くある話だ。だがな、これをCWで再現するのは非常に大変だ。何故かと言うと、CWは基本的には選択肢を選択することで話を聞くしかないからさ。自分で何も考えなくても、ただ選択肢を全部選べば知りたいことは聞けちまうんだな。後の困難を予想して質問をするのが楽しいのであって、ちまちま選択肢を選ぶのが楽しいわけじゃあないのさ。だからって昔のAVGみてえに質問入力式にしたり、あるいは時間制限(回数制限)式にしたってそりゃただわずらわしいだけさ。状況にもよるがな。
ボブ  :はぁ……。
ジョニー:だからって依頼人を出すのが無意味ってわけじゃあねえからな。大抵の場合はそりゃあ依頼人から直接詳しい話を聞くのが筋ってもんさ。今回はただの魔物退治だから、親父から話を聞くだけで十分ってわけよ。
ボブ  :じゃあやっぱり面倒だからなんじゃないスか。
ジョニー:面倒だからじゃねえんだよ。命張って仕事してる冒険者が手間を惜しんでどうすんだ。だが、プレイヤにとっては確かに面倒だよな。だから依頼人を登場させずに、親父に語らせるだけで終わらせちまってるわけだ。言ってみりゃゲーム上の措置ってわけさ。
ボブ  :ゲーム上の措置ッスか……。
ジョニー:それから、さっき俺が挙げたような疑問を冒険者が感じている様子がないってのは、親父が信頼されてるって証拠だよな。
ボブ  :し、信頼ッスか?
ジョニー:親父の斡旋する仕事で、かつ依頼人に直接問いただすシーンがないってことは、つまりこれが真っ当な依頼であり、さほど困難な仕事ではないってことだ。それはつまり親父を信頼しているからこそそう思えるんだよ。逆に言えば、この程度の依頼をこなせないようなら、冒険者としてやっていくのは厳しいってことさ。単純なようでいて、実際これだけの情報がつまってるのさ、あのシーンにはな。
ボブ  :なんか屁理屈っぽいッスよ兄貴。
ジョニー:そうか? まあいい。じゃあ次は洞窟前のシーンだ。見張りが一人立ってるわけだが、ここでは様々な行動を起こすことが出来る。これはわかるな?
ボブ  :当たり前ッスよ。俺だってキーコードぐらいわかるッス。眠りとか暗殺とか、そういうのが使えるんスよね。
ジョニー:そうだ。さて、そこで聞くがな、奇襲を仕掛ける意味はなんだ?
ボブ  :意味って、そりゃあ正面から戦うより楽ッスからねえ。
ジョニー:そりゃそうだな。こいつは俺の質問が悪かった。それじゃあ、見張りに対して奇襲を仕掛けるのはどうしてだ?
ボブ  :どうしてって……、さっきと同じじゃないんスか?
ジョニー:見張りは何のためにいるんだ?
ボブ  :見張りって言うぐらいだから見張ってるんじゃないんスか?
ジョニー:そうだ。それで、もし見張りが冒険者に気が付いたらどういう行動を取る?
ボブ  :向かってくるんじゃないんスか?
ジョニー:違うな。中にいる者に危険を知らせるんだ。そのための見張りだからな。そうなったらどうなる? 中にいるゴブリンが警戒するだろう? もしかしたら大勢のゴブリンが外に出て襲ってくるかもしれない。こっちが熟練の場合はそれでもいいかもしれないが、出来れば楽に進めたいじゃないか。だからこそ見張りが中に連絡をしないようにさっさと仕留めるのさ。
ボブ  :そ、それぐらい知ってるッスよ。
ジョニー:ほう、ならいいがな。とにかくここでは、中に知られることなく見張りを始末出来たか否かという二つの状態のいずれかになるわけだ。これはかなり重要な部分だ。これが最初の仕事なら、ここで失敗した場合はヘタをすると全滅する可能性すらある。自分らの腕を過信せず、もし失敗した場合には逃げ帰って出直すぐらいの判断力は欲しいところだな。
ボブ  :そんなに重要なんスかねえ?
ジョニー:そりゃあ重要だろうよ。何せこの後の展開がめちゃくちゃ不利になるからな。……おい、まさかそれぐらいはわかってるんだろうな?
ボブ  :と、当然ッスよ。ちょっと兄貴を試しただけッスよ。
ジョニー:ならいいがな。それじゃあ次は洞窟の中だ。洞窟の中では見張りの仕留め方で大きな違いが出てくる。それはなんだ?
ボブ  :……ええと、ゴブリンが警戒している?
ジョニー:そりゃさっき俺が言ったことだろう。警戒してるこたしてるんだが、それはゲーム上どう表現されているかを言えってんだよ。
ボブ  :うぐう。
ジョニー:なんだよそれはよ。あのな、出現率の違いで表現してるんだよ。気がつかれてない場合は出現率は5%。ゴブリンの住み付いてる洞窟に入るわけだから、そりゃあ偶然出会うこともあるわけだ。もし気がつかれている場合には、出現率は20%。警戒をしているからこの数字になるわけだ。この数字からもわかるように、通常の敵の出現率なんてそんなもんなんだよ。ゴブリンの住み付いている狭い洞窟でさえ、5%だぞ? ただの森だのなんだのを歩く場合に10%だの20%だのなんてのはよ、魔物の巣じゃあるまいし、論外ってこった。
ボブ  :そ、そうッスよね。常識ッスよ。ハハハハハ。
ジョニー:……。
ボブ  :ハハハハハ、ハ、ハ……。
ジョニー:それでだ、もし気がつかれていない場合だとしても、偶然出会っちまった敵と長々と戦ってりゃあそりゃ他のゴブリンにも気がつかれちまう。速攻で仕留めなけりゃ気がつかれちまうわけだな。そうなったらさっきの気がつかれた場合と同じで、出現率は20%になるわけだ。だから、さっきは見張りの仕留め方と言ったが、要するに気がつかれているか否かが問題なわけだな。それから、逃げ出す場合の処理も注目すべき点だ。逃げ出す場合は洞窟前まで逃げるようになってるんだな。逃げ出しておきながら、場所はそのままってのはいかにもまずい。それじゃまるで敵が逃げたみてえだろ? だからとにかく敵をふりきって入り口まで逃げ出すわけだ。まあ考えてみりゃ当然なんだがな。
ボブ  :…………。
ジョニー:次は洞窟内の三叉路だ。順調に進んでいれば、ここでホブゴブリンのいびきが聞こえる。まあ判定に成功すればだがな。いびきが聞こえるってこた何者かが寝ているってわけだ。放っておくか、始末するかの決断をすることになるわけだな。依頼内容からして、触らぬ神にたたりなしなんて言ってられねえから、まあ普通は始末しに行くだろうな。すでに気がつかれている場合はホブゴブリンは起きちまってるからいびきは聞こえない。まあそれでも偶然そっちに向かう場合はあるだろうな。なんせ二択だ。
ボブ  :そ、そうッスね。
ジョニー:次はホブゴブリンのいる場所だ。熟睡中なら労せずに始末することが出来る。もし起きているなら問答無用で襲ってくる。いかに気がつかれずに侵入出来るかの重要さが良くわかるだろ。
ボブ  :そ、そうッスよね。
ジョニー:次はゴブリンの集団の一歩手前だ。ここでは判定に成功すると、西側にゴブリンの集団がいることがわかる。決戦前に注意をしてくれるわけだな。TRPGなんかでもダイスを振らせて、判定に成功すれば情報を与え、失敗すれば何も気がつかないということにするわけだが、ダイスを振らせればキャラとしてはともかくプレイヤとしてはどうしても警戒しちまうだろ? だから関係のないとこでもダイスを振らせるとかして誤魔化す必要があるんだが、CWの場合は何も表示させなければいいんだからな、楽だよな。
ボブ  :はあ……。
ジョニー:次はゴブリンの集団だな。ここでは確実に戦闘になるわけだが、もしホブゴリンが起きていて、さらに始末せずにいた場合は途中で加勢に現れる。騒ぎを聞きつけて飛んでくるわけだな。新米冒険者にとってはかなり不利になるわけだ。勝利すれば依頼は終了、あとは帰るだけってことになる。
ボブ  :そうスね。
ジョニー:じゃねえだろ。もちろん帰ってもいいんだが、やっぱり冒険者たるもの、ゴブリンが何か隠してやがらねえか探らねえとよ。そういうわけで奥に進むと、宝箱にご対面ってえわけだ。ここで盗賊役がいると楽だあな。
ボブ  :盗賊役ッスか。
ジョニー:盗賊系スキルってのは戦闘中に役に立たないのが多いんだが、それは当たり前のことだよな。冒険者ってのは何も戦うだけが能じゃねえからよ。宝箱を見つけて、調べもせずにすぐに開けようとするなんてヤツは冒険者失格だよ。その際にそういうことに長けたキャラがいるといないとでは大違いなんだな。実際ここの宝箱もそうしたキーコードに対応しているわけだ。宝箱や扉、他にも怪しいオブジェクトは盗賊系のキーコードに対応させておけってこったよ。
ボブ  :はあ。
ジョニー:そうして手に入るのが賢者の杖だ。実際最初の仕事で手に入れるにゃ便利過ぎる代物だが、これがあれば今後楽になるからってんで最初のシナリオで与えておこうって意図と、あとはシナリオ自体が単純だからその埋め合わせのつもりもあるのかもしれねえな。
ボブ  :た、単純ッスか……。
ジョニー:プレイヤにとってはな。今見てきたように、中をみりゃ単純なんて言えねえやな。話だけは無駄にデカイくせに、実際ゴブ洞程度の処理もしてないようなシナリオが多いのが現状ってのはちと泣けてくるじゃねえかよ。なあ、そうじゃねえかボブ。
ボブ  :あうう。
ジョニー:どうだ? おまえはゴブ洞を理解していたか? 理解した上でシナリオを作っていたか?
ボブ  :……わかってなかったッス。
ジョニー:まあそうだろうな。わかってりゃあんなシナリオ作らねえだろうからよ。CWの目指す本来の形のシナリオを作る場合には、このゴブ洞ってのは非常に良い手本になってるんだよ。まずおめえはそこから勉強し直せ。ゴブ洞から学べることを最低限生かせば、最悪でも凡作程度は作れるだろうよ。最低でもこんぐらいの処理はしてくれっつうAskの願いなんだと思うし、プレイヤとしては切実な願いなんだからな。
ボブ  :うぃ〜ッス。
ジョニー:気合が入ってねえなあ。まあいいや、疲れたから俺はもう寝る。今日教えたことを生かすも殺すもおまえ次第だ。それを忘れるなよ。そんじゃあな。
ボブ  :うう、ゴブ洞を甘く見てたッス……。

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