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応援団物語 - [その他について]

 今まで話の展開上書けなかったエピソードなどをいくつか書くことにする。

伝説の親衛隊隊長

 伝説というのは明らかに言い過ぎだが、我々の間では親衛隊隊長の鑑とされる人物がいた。親衛隊隊長とは言っても、親衛隊というものは存在しない。過去にはあったのかもしれないが、今は旗持ちのことをそう呼ぶのである。その親衛隊隊長がどこの高専の団員だったのかは覚えていない。とにかく、野球の応援の際に、旗をあげていたのである。木製のポールは話を聞いて想像するよりはるかに重い。それを中腰の姿勢でニ・三時間持ち続けるのである。それだけでもキツイというのに、不幸なことにファールボールが飛んできて、その親衛隊隊長の足にぶち当たったのだそうだ。ファールボールとは言え、硬球である。うめき声の一つくらい立てても誰も文句は言わないであろうところを、その親衛隊隊長は表情一つ変えずに旗を持ち続けたという。
 私も旗持ちをしていたのだが、慣れていてさえ、一時間も持っていると足は震え、手はポールを容易に離れなくなる。そんな所にボールがぶつかってきたら……。私にはその人物と同じことが出来る自信はない。

恐怖のM城高専

 M城高専の応援団は怖い。東北の高専応援団の中で間違いなく一番怖い
 例えば団長会議の時である。我々は応援団モードで団長会議というものを行う。ここで様々な取り決めなどが決められたり、確認されたりするのである。その最中、S専の応援団員が発言中、各高専を呼び捨てにした。
「M城と電波とS専は三高専定期戦があり〜」
 通常、他高専を呼ぶ時は「さん」を付ける(M城さん、電波さん等。……どうでもいいが、「電波さん」というのは何か誤解されそうな呼び方だ)のである。私は別に気にもしなかったのだが、M城は違った。発言したS専に意見を求められても何も言わず、じっと睨んでいる。しばらくそのままの状態が続き、「呼び捨てにされる覚えはねぇんすけどねえ」と不良のような口調で言う。見れば、団長の横に座っている団員は、尻ではなくほとんど背中で椅子に座っていて、下半身はだらしなく投げ出しているではないか。これでは応援団というより、ただの不良である。その後M城高専はかなり不機嫌そうな表情をして、ずっと沈黙を守っていたが、M城高専の団員がいきなり紙コップ(団長会議の際には飲み物が出される)をテーブルに叩きつけた。その時運悪く主幹校であり、また運悪く議長を務めていた私はM城高専にそれは一体何のマネかと注意をした。すると……
「手が滑りましたぁ(生意気そうに)」
 (嘘つけぇぇぇええええ!!!!)

 私だけでなくその場にいた全員がそう叫びたかっただろうがぐっと我慢し、私は再度注意を与えてその場は収まった。私は臆病者なので内心ビビリまくっていたが……
 M城高専にまつわる話は他にもあるが、こういう話はあまり書かない方が良いだろうからやめておく。

クラブ紹介

 クラブ紹介の際には、我々応援団も新入生に向かって入団を呼びかける。私は当時フレンドリーな応援団を目指していたので、何かウケを狙わなければと考えていた。そして当日、例によって応援団式の礼をすませると、新入生を前にして私は言った。
「我々応援団では団員を募集している。今入団すると、もれなく下駄がプレゼントされる!!
 他愛のないセリフだったが、これは非常にウケた。新入生にではなく、脇で順番を待っていた各部の部長連中に。新入生は神妙な顔でこちらを見ている。どうやら、最初の大声で圧倒されたらしく、私が何を言っているかは問題ではなかったらしい。
 こういった私の地道な応援団フレンドリー化計画によって、応援団の崩壊が多少早まったのは間違いないだろう。海より深く反省。

交流会

 団長会議とは別に、各高専の応援団は私服での話し合いを持っていた。私服であるから当然応援団モードではなく、普通に話し合いをするのである。これが交流会である。電波高専で交流会が開かれた時、私は団長であったから色々と準備をしていた。場所は広い部屋ということで、美術室(講義にも使われる部屋であった)を使うことにして、団員たちとテーブルを並べた。集まるのは三校なのだが、テーブルをコの字型にすると、四方の内の一方が空いてしまいなんとも寂しい。私は何か良い案はないかと、美術室内を見渡した。すると、私の目に飛び込んで来たものがあった。ハニワである。美術室に飾られていたハニワ。これを空いた一方のテーブルの上に置いておけばウケも狙えるに違いない。早速私は実行し、他高専の応援団の到着を待った。
 しかし、交流会が始まり、和やかなムードで話し合いが進み、交流会が終わる頃になっても誰もハニワに突っ込んでくれる者はいなかった。そして結局、寂しそうに並び立つハニワは誰にも突っ込まれずに交流会は終わってしまったのである。いきなりハニワがテーブルに飾ってあったら絶対驚くと思うんだけどなあ……

女子団員

 信じられないかもしれないが、M高専には女子団員がいた。マネージャーではない。学ランを来て大声を張り上げる応援団員である。もちろん女性にやらせてはいけないという決まりはないのだが、所謂常識に縛られた我々には考えもつかなかったし、実際にやる女学生がいることも極めて驚きであった。
 これは私が四年か五年の時に一度見ただけであり、聞いた話では、その女学生が最上級生であったために団長も務めていたのだという。応援団は男がやるものという固定観念を持つ我々であるから、それはつまり、やる気があるのであれば女学生でも起用せねばならないほどに応援団員がいなかったということなのであろう。

応援団の素顔

 ここまで読んで来た方はもしかすると、我々が普段の生活からして硬派であるように思ったかもしれない。人への挨拶はすべて「押忍」で、人前で笑うことなどなく常にムスっとした表情をしている……、もちろんそんなことはない。応援団モードの時以外はあくまでも普通の学生である。
 そもそも我々はいつもいつも真面目に練習していたわけではない。私が入団する前には、雨が降っているからという理由で団室でTRPGをやっていた事もあると聞いたし、「今日は練習する気にならないから野球でもやるか」といって遊んでいたこともある。普通の運動部であっても、それは笑ったりはするのだろうが、練習中はやはり普段よりは真面目な雰囲気になったりする物だろう。応援団の場合は、それが少々行き過ぎているという程度の話なのである。


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