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スミレ博士の研究室 - [第九回]

実践空想学者はアンドロイドの夢を見るか?

 やあ、みなさん、あの映画は見ましたか? 『クララメカクララ』。あれは傑作ですよ。遠近法を無視してB29を撃墜したという日本の伝説の武器「竹ヤリ」を極めたハイジと、毒電波を自在に操るクララとの死闘。身長が57メートルあることを除けば本物と寸分違わぬメカクララに惑わされて次々とやられていく中国雑技団の団員達。そしてネス湖で修行中にネッシーに襲われて、湖の藻屑と消えたはずのペーターは実は……。おっと、これぐらいで止めておきましょう。これ以上書いてしまうと面白くなくなってしまいますからね。ぜひ見てみて下さい。

 ところで、みなさんは日記をつけていますか? 私は面倒くさいのでつけていないのですが、実は書いた覚えのない日記が出てきたのです。以下に全文ではありませんが紹介します。

×月10日
 アンドロイドH-03が完成。微調整に数日かかるだろうが、こんどこそ成功するだろう。
×月13日
 H-03、自分が人間と同等の能力しか持たないことに不満をもらす。H-01とH-02の失敗例を見せ、原子力の十万馬力も、加速装置も必要ないことを納得させる。
×月14日
 調整終了。実際に私の助手として働かせて様子を見ることにする。
×月18日
 今のところ問題はない。そろそろ記憶の移植を行っても大丈夫だろう。明日決行することにする。
×月19日
 記憶の移植に成功。本人は自分がアンドロイドであることを知らない。教えるべきか否か。非常に迷う。
×月21日
 H-03はもうしばらく様子を見ることにする。下手に刺激して異常が起きれば、起きている時の私にも影響が出てしまう。ここは慎重にいこう。
×月22日
 マッハで静止するという男に会ってきた。静止して飛ぶことに興味を憶え、空間固定装置を作り始める。
×月25日
 空間固定装置が完成した。明日実験を行うつもりだ。成功するとよいのだが。

 日記はここで終わっていました。これは誰かの悪戯でしょうか。本当だとすれば、私の三人の助手の内、いったい誰がアンドロイドなのでしょうか。いやいや、馬鹿げた話です。おそらくは悪戯でしょう。大体最近私の助手になった者などいないのですから。
 ま、そのうちこの悪戯の犯人も見つかるでしょう。

 それではみなさん、科学する心を忘れずに。

ヒデ丸の日記(抜粋)

□月15日
 存在確率増幅機が完成。明日から実験を開始。
□月19日
 実験は順調。ツチノコはもう食べ飽きた
□月31日
 妖精はあまりおいしくないことが判明。フェアリーリングが出現したがすぐに消失。二度と現れなかった。
△月1日
 増幅機に異常発生。すぐに直したが、あまり長くはもたないだろう。材料が特殊なため、もう一台作るのは不可能ではないが非常に困難だろうと予想される。まだ限界というほどではないため、実験は続行。明日はいよいよドラゴンを試す。
△月2日
 記憶はないのだが、僕は一度死んだらしい。右肩から左腰にかけて引き攣れたような跡。ドラゴンにやられたとのこと。先生の蘇生薬の効き目は素晴らしい、感謝せねば。
△月3日
 マリオ出現。ただし「スーパーマリオブラザーズ」ではなく、「マリオブラザーズ」のマリオのようだった。
 何か頭の回転が鈍い気がする。疲れているのだろう。
△月4日
 また増幅機に異常。こんどは修理に手間取りそうだ。
 どうも体の感覚がおかしい。蘇生薬の後遺症だろうか。
△日5日
 増幅機の修理が続いている。
 体の傷が開いてきた。右肩から左腰にかけてパックリと切れているが、出血はない。痛みがないのがかえって恐ろしい。
△日6日
 増幅機の修理が完了したが、動作は非常に不安定だ。現段階ではこれ以上は望めない。
 頭にもやがかかっている。なかなか考えがまとまらない。
△月7日
 増幅機は完全に壊れたらしいが、そんなことはどうでもいい。ようやくわかった。蘇生薬は完全ではなかったのだ。僕の体は腐り始めている。医者に見せても無駄だろう。先生はいつものように行き先も告げすに出かけたらしい。僕が蘇生薬を使ったことを知っているのは先生だけだ。同僚にはこんな姿を見られたくない。
△日8日
 昨日から一歩も部屋の外に出ていない。長時間意識を保っていられない。このまま死んでしまうのかと思うと恐ろしい。……が喰いたい。
△月9日
 ……が喰いたい。
△月10日
 腹は減っていないのに異常に喰いたいものがある。同時に一人の女性の顔が浮かぶ。確か恋人だったような気もするがよくわからない。とにかく今はあの女の脳が喰いたい。……また意識がなくな
△月11日
 くイたイ

スミレ博士の日記(抜粋)

△月12日
 ヒデ丸君がゾンビー化していることがわかった。もともと長期間部屋に篭って研究をすることがあるために発見が遅れてしまった。幸運にも私以外は気づいていない。なんとかしなくては。
△月13日
 蘇生薬を使った直後に記憶を保存しておいたのを思い出した。蘇生薬が効かなかったときのためだったので忘れていた。精巧なアンドロイドを作って記憶を移してやれば問題なかろう。いまのところクローン体を急速に成長させる技術はないが、将来的には生身の体にしてやれるだろう。

再びスミレ博士の日記(最終日)

☆月27日
 起きている時の私に日記が見つかってしまった。ヒデ丸君の日記と共に違う場所に隠して、しばらく日記を書くのを控えるべきだろう。とりあえずは今書いているこれが書き納めとなる。日記さえ完全に隠してしまえば、昼の私は誰かの悪戯か夢かと思い忘れてしまうだろう。昼の私はもう一人の私がいることを知らないのだから。


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