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獄中のポエム師 - [詩]


一匹の蟲が飛んでいる
あっちにとまり、こっちにとまり
僕は何をするでもなくそれを見ている

一匹の蟲が飛んでいる
その脳内に響くような羽音も
今日は何故か気にならない

一匹の蟲が飛んでいた
電話の受話器を置くと
もうどこにいったかわからない

一匹の蟲が飛んでいた
部屋を出ようとすると
僕の顔に何かが触れた

一匹の蟲が死んでいる
部屋の扉に鍵を掛け
僕はゆるりと歩き出した


笛や太鼓の音がする

いつからだろう
それを聞いても心踊らなくなったのは

いつからだろう
窓からそれを聞くだけになったのは

祭りの記憶はただ一つ

一人はぐれて泣き出しそうになったとき
目隠しをしたその柔らかい手を想い出す

賑やかな声に花火の音が重なり
僕は無言で窓を閉めた


仏頂面の父親の遺影から逃れて
記憶よりもずっと狭苦しい
急な階段を登る

未だ自分の名前の残る扉を開けると
うっすらと埃の積もった机が待っていた

固い引き出しの中には
黄ばんだ封筒が一つ

宛名のない封筒には
出せなかった恋文が眠っている

あの頃の純粋な気持ちを懐に収めて
色の薄れた窓掛けを開けると
唯一好きだった景色は新築の家に遮られて
もう
見えなくなっていた


永遠に降り止まぬ小雨の中
朽ちかけた停留所で
僕はバスを待っている

雨に濡れた様子もなく
するりとバスが現れて
和服の女性がバスに乗り込む

他の人は身動きせずに
音を立てないバスを見送る

とんびの男性
帽子を被った子供
杖をついた老人

皆一人づつバスに乗り込み
僕は一人残された

ざあざあと降りしきる雨の中
一台のバスが僕の前で止まった
そのバスに乗ろうとすると
何故だか急に怖くなり
僕はバスを見送った

乗車拒否をされたり
他人に止められたり
色々な妨害があって

僕はまだバスには乗れない

しばらく停留所でぼうっとしていたが
やがて僕は小雨の中をゆっくりと歩き出した


右か左か
どちらに行けばいいのだろう

右の道には山があり
左の道には谷がある

山を越えると楽なのか
谷を越えると楽なのか

山を越えると為になるのか
谷を越えると為になるのか

目的地は遥か遠く
どちらの道が通じているのか
何やらさっぱりわからない

人の話を聞いてみると
道は無数にあると言う

どの道を進んでよいのか
結局さっぱりわからない

真面目に道を選んでいると
人が大勢やって来て
みんなで一つの道を選んだ

周りに人がいないから
一人で座って道を眺める

ぼおっと道を眺めていると
一人の人がやって来て
棒を倒して道を選んだ

真似をするのは嫌だから
ダイスを振って道を決めた


ふと見上げると
木の枝に二羽の小鳥

しばらくすると一羽は飛び立ち
一羽はポツンと残された

何とか気を引こうと思うが
どうしてよいかわからない

声をかけたら逃げるだろうし
エサでも撒いたらよいのだろうか

どうしようかと迷っていると
一人の男が木を蹴って
小鳥は驚き飛び去った

その男に抗議をしたが
男はまったく取り合わぬ

男が去った木の前で
一人の女に気が付いた

じっとこちらを見つめているが
何だかその目が気に入らない

近くで喧嘩が始まると
私はその場を後にした


気をつけろ! 気をつけろ!
火吹き男がやってくる

グズグズしてると燃やされちまうぜ

女子供も容赦なく
燃やし尽くすぜ火吹き男

気に入らない奴
ムカツク奴も

みんなみんな燃やしておくれ

火をつけろ! 火をつけろ!
火吹き男よ火をつけろ

なんでもかんでも燃やしちまえよ

いい奴 偽善者
恋人友人家族もみんな

みんなみんな燃やしておくれ

お前の炎で世界を燃やせ!!

地獄の業火に飛び込んで
最後は自分を燃やしてしまえ


聖なるかな聖なるかな!

神の定めた摂理なり
従えよ小羊ども
もしも守らぬ者あれば
天の怒りが炸裂だ

神の国に行きたいならば
神を敬え小羊ども
真面目に暮らしていたならば
死んだ後に救ってくれるぜ

神の定めた摂理なり
信仰しろよ小羊ども
もしも信じぬ者あれば
天に代わってぶち殺せ

聖なるかな聖なるかな!


闇夜のような鳥が鳴く
荒れた荒野に餌を求め

渇いた荒野を一人行く
夢を背負ってただ一人

闇夜のような鳥が鳴く
荒野を渡る者を笑って

無限の荒野を一人行く
叶わぬ夢を一人背負い

闇夜のような鳥が鳴く
餌となるまで見守って


無能な男はうつろに笑う

生きた体に病んだ精神で
何も成さずに生きてきて
本気になったこともない
彼には何も出来はしない

やる気になれば出来るさ
それがいつもの彼の口癖
所詮やる気になりはせず
考えるのは言い訳ばかり

やる事成す事中途半端で
何一つとして大成しない
そんな自分を恥じもせず
男は虚ろに笑って過ごす

笑う以外に出来る事など
何もないと思い込むため
全てを諦め何にもせずに
そんな無価値な己を蔑み

無能な男はさびしく笑う


生きる意味を知っているか?
知らないのなら死んじまえ

生きる目的ないのなら

死ねよ死ねよ死ねよ死ねよ死ねよ死ねよ死ねよ
死んでしまえ

それが嫌だというのなら
死ぬのが嫌だというのなら

ダメ人間として生きるのならば

生きる屍生きる屍生きる屍生きる屍生きる屍
所詮お前はゾンビーだ

人権あるだけ始末が悪いぜ


人には見えぬ その壁を
探り続ける 男が一人

みんなは気にもしないけど
男は一歩も進まない

乗り越えろ! その壁を!
ぶち壊せ! その壁を!

人には見えぬ その壁を
押し続ける 男が一人

みんなは素通りするけれど
男は一歩も進めない

乗り越えろ! その壁を!
ぶち壊せ! その壁を!

人には見えぬ その壁を
叩き続ける 男が一人

叫び続けているけれど
誰にも何にも聞こえない

乗り越えろ! その壁を!
ぶち壊せ! その壁を!

あるときみんなを見たけれど
壁があるのに見ないふり
おまえらどうしてそうなんだ
挑戦しろよ その壁に

人には見えぬ その壁と
戦い続ける 男が一人

はたから見ると滑稽だけど
それが男の人生の壁

乗り越えろ! その壁を!
ぶち壊せ! その壁を!

あるときみんなを見たけれど
壁もないのに止まってる
おまえらどうしてそうなんだ
挑戦しろよ その壁に

人には見えぬ高い壁
所詮悲しき一人芝居


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