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駄作屋ボブの憂鬱

21. 自由度の高いシナリオを作りたいんスけど
ボブ  :ねえ兄貴、ちょっと相談に乗って欲しいんスけど。
ジョニー:断る。
ボブ  :そんなこと言わずにお願いするッスよ。
ジョニー:断る。
ボブ  :……実は最近モザイク除去装置を手に入れたんスよ。兄貴のために。
ジョニー:ボブ、相談事ってのはなんだ? 俺はいつだって相談に応じるぜ。泥舟に乗ったつもりで任せとけ。
ボブ  :泥舟ってのがちょっと不安ッスけど、まあいいッス。実は、自由度の高いシナリオを作りたいんスよ。それで、色々なキーコードに対応させたり、色々な行動に対する反応を作ってたんスけど、作っても作っても終わらないんスよ。一体どの程度作れば、自由度が高いシナリオになるんスかねえ?
ジョニー:そりゃおまえ、そんなもんは人それぞれだろ。おまえが納得いくまで作ればいいんじゃねえのか。
ボブ  :それはそうなんスけど、あんまり大変なんでそろそろ妥協したいんスよ。だから、兄貴の意見を聞いてみたいなあと思ったんス。
ジョニー:そうか。ある程度は作ってあるんだな?
ボブ  :そッス。依頼を受けて仕事をこなす、兄貴の言う正統派を目指したッス。
ジョニー:それじゃちょいとやらせてもらうぜ。どれどれ……
ボブ  :…………。
ジョニー:…………。
ボブ  :…………。
ジョニー:う〜ん……
ボブ  :ど、どうッスか。
ジョニー:うん、まあ頑張って作ってあるんじゃねえかな。
ボブ  :マ、マジッスか!
ジョニー:嘘言ってどうする。演出だの雰囲気作りはまだまだだが、プレイヤの選択に対するリアクションは結構作りこんであるな。その場の反応だけでなく、展開が変化する場合もあるしな。
ボブ  :(あ、兄貴が褒めてくれるなんて……。やっぱ貢物が効いてるんスかね。でもきっとこの後で……)
ジョニー:だがなあ、
ボブ  :クポー! やっぱり矢張!
ジョニー:なんだよ、矢張って。わけわかんねえよ。んなことよりよ、このシナリオだけどなぁ、何でこんなに色々行動出来るんだ?
ボブ  :へ? そ、そりゃあ……なんていうか、一本道なシナリオよりも、冒険者が色々出来た方が楽しいかなーって思ったからッスけど。
ジョニー:ふ〜む……。
ボブ  :な、なんスか。何かまずかったッスか。
ジョニー:なあボブ。おまえ、自由度が高いってのは、可能な限りどんな行動でも取れるようにすることだと思ってないか?
ボブ  :思ってるッスよ。その通りじゃないスか。
ジョニー:ゲームの内容によってはそうだな。だが、おまえが作ろうとしているシナリオの内容においては違う。
ボブ  :何言ってんスか兄貴。わけわかんねッスよ。
ジョニー:そうだなあ、例えばよ、おまえのシナリオの冒頭で、いきなり依頼人に眠りの雲をかまして眠らせることが出来るよな。
ボブ  :出来るッス。
ジョニー:これ、何の意味があるんだ?
ボブ  :意味って言われても……眠りのキーコードはかなり有名だし、それに対応させただけッスよ。で、兄貴がいつも言っているように現実的に考えて、いきなり眠らされた依頼人はそんな冒険者に仕事を依頼しようなんて思わないんで、目を覚ました依頼人が去っていって終了させたんスけど。
ジョニー:現実的に考えようと努力しているのは認めるが、ちいとズレてるな。
ボブ  :なにがッスかあ!
ジョニー:普通、特に怪しげな依頼人でもないっつーのに、いきなり魔法や何かで眠らせる冒険者がどこの世界にいるんだよ。
ボブ  :どこの世界って言われても、それはプレイヤが取った行動じゃないッスか。
ジョニー:おまえはそれを認めるのか? そんなキチガイじみた冒険者を認めるのか?
ボブ  :別に認めてるわけじゃないッスよ。俺だって正統派を目指すからにはそんな冒険者はお断りッス。だからそれやったらシナリオ終了させてるんスよ。
ジョニー:冒頭でいきなり終了するわけだな。もしそうなったら、プレイヤはどう思うよ?
ボブ  :さあ……もう一度、今度は眠りの雲を使わないで進めてみようって思うんじゃないッスかね。
ジョニー:そう思うヤツもいるかもしれん。だが、おまえのシナリオだと冒頭で終了しても済印がついてるじゃねえか。どうすんだよ、これ。
ボブ  :いやあ、依頼人に逃げられたわけッスから、やっぱり再度プレイ出来るのは変かなあって。でもロードすれば問題ないッスよ。
ジョニー:そもそも眠りの雲を使わせなければいいんじゃねえのか? 冒頭のシーンで対応させる意味がねえだろ。
ボブ  :え〜、だってそうしたら自由度が低くなるッスよ。
ジョニー:ふう。なあボブよ、おまえ自身が冒険者だったとしよう。
ボブ  :な、なんスか。
ジョニー:おまえは冒険者として、依頼について話を聞こうと依頼人に会うわけだ。ゲームとしてではなく、おまえ自身が本当に冒険者だったとして、一体依頼人に対してどう対応する?
ボブ  :それは……まあ話を聞くんじゃないスかね。
ジョニー:だろうな。あとはまあ、依頼人を観察するとかそんなもんだろうよ。
ボブ  :そうッスね。
ジョニー:今の話で、眠りの雲を使う理由があるか?
ボブ  :ない……ッスけど、でもそれは俺が考えないだけで、人によってはもしかしたら使うかもしれないじゃないッスか。
ジョニー:まあ頭がイカレてりゃ使うかもしれんな。だがな、そんなわけわからん行動にいちいち対応させようとしてたら、そりゃあ大変だろうよ。
ボブ  :大変ッス。もう作るの飽きたッス。
ジョニー:だからさ。なんでもかんでも対応させりゃいいってわけじゃねえんだ。現実的に考えて、選択する可能性の高い行動にさえ対応させときゃいいのさ。その判断はもちろんおまえの考えによるから万人が満足することはないだろうが、仕事量が多くてギブアップするよりはいいだろうよ。
ボブ  :うう〜ん、なんとなく理解出来るッスけど、でもそれだと選択の幅が狭まらないッスか?
ジョニー:そりゃあそうさ。だが、今までに得られた情報などを元に、限られた選択肢の中からどれを選ぶかってのが重要なんじゃねえのか? 何かをすれば何かの反応が返ってくる。こりゃあお遊びとしては面白いさ。だけどよ、本筋に関係するとも思えない行動に対してまでいちいち作ってたら、とてもじゃねえがやってられねえだろうよ。
ボブ  :確かにやってられないッス。
ジョニー:その時その場所でその状況で、冒険者として取るのが自然であろう行動を考えて、それさえ作っておけばいいのさ。大体、おまえはシナリオを楽しんで欲しいんだろうし、話もきちんと見て欲しいんだろう?
ボブ  :もちろんッスよ。
ジョニー:だったらよ、シナリオを崩壊させるような行動を取らせない、あるいは取らないことが自然に感じられるようにうまく誘導してやらなけりゃいけねえだろうよ。自由度を高くしましたーなんつって、ちょっとでもおまえの考えから外れた行動を取ったら即終了なんてぇんじゃあ、結局一本道とかわらねえじゃねえか。
ボブ  :一本道じゃないッスよ。三本道ぐらいはあるッスよ!
ジョニー:そういう問題じゃねえだろ。大体あれだ、おまえのこのシナリオ、行動によって分岐はするみてえだが、大して話かわらねえじゃねえか。自由度が高いことと、マルチシナリオであることはまた別なんだぜ? 一本道の話だって、様々な行動を取らなければ情報が得られないってんなら十分自由度を高く出来るだろうが。話の流れが一本道なシナリオと、一本道の読み物シナリオじゃあまるで違うんだよ。話が変化するかどうかが重要なんじゃあねえのさ。
ボブ  :マルチシナリオじゃいけないんスか。
ジョニー:いけなかねえよ。だが、おまえのシナリオの場合には、何も展開が変化する必要ねえじゃねえか。色々な行動が取れればそれ以外はどうでもいいのか? そうじゃねえだろう。
ボブ  :それはまあそうッス。
ジョニー:だろうよ。冒険者として通常許される範囲で自由に行動出来て、なおかつ話の流れにうまく乗せてやる。それを理想として、可能な限り、自分の力量の及ぶ限りそれに近づけるってのが、自由度の高いシナリオを作るってことなんじゃねえかと俺は思うぜ。
ボブ  :なるほど。つまり兄貴はマルチシナリオが嫌いなんスね。
ジョニー:ちげえよ! 人の話聞いてんのかよ!
ボブ  :聞いてるッスよ!
ジョニー:右から左に抜けてるじゃねえか。ただ聞きゃいいってもんじゃねえだろ。頼むから自分の頭で咀嚼してくれよ。
ボブ  :前向きに善処するッス。
ジョニー:チッ、役に立たねえ言葉ばっか覚えやがって。なんつーかよ、PCの行動に応じて展開が変化するってのはそりゃいいさ。だがな、その展開がおまけのような作りってのはまずいだろ。そんな分岐しか作る気がねえんだったらよ、本筋にうまく誘導することを考えた方がいいだろっつー話さ。VNみてえに、複数に分岐する話をそれぞれ楽しむタイプならともかく、そうでないならプレイヤにとっては自分が選んだルートこそが本筋なんだからよ、それ単体でしっかりと楽しませるぐれえ作らねえと、少なくとも正統派なシナリオとして自由度の高いマルチシナリオってのには無理があると思うぜ。『ゴブリンの洞窟』のようなシナリオ、『賢者の選択』のようなシナリオ、VN的な何度もやり直す類のシナリオ、それぞれ自由度の高いシナリオだが、それぞれ違う楽しさがあるんだ。その違いを理解せずに、とにかく色々な行動を取れるようにして、それぞれに対するリアクションを、な〜んてやってたら一体自分が何を作りたかったのか忘れちまうぐらいその作業に手間かかっちまうだろうよ。
ボブ  :え、え〜と、結局どうしたらいいんスかね。
ジョニー:結局ソレかよ!
ボブ  :だって、兄貴の話わかりにくいんスもん。もっとサクっと簡単に言えないんスか。
ジョニー:だからそりゃあ最初に言った通りだよ。後で録音テープを聞き直しとけ。まああれだ、必要な部分だけ作れ。っつーか、必要な部分の取捨選択を出来るようになれ。わかったな。
ボブ  :なんか投げやりッスね。
ジョニー:俺ももう歳かな。昔みてえな元気はなかなか出ねえやな。
ボブ  :そッスか。なら、このモザイク除去機はいらないッスね。
ジョニー:いるっつーの! ビンビンだっつーの!
ボブ  :なんか兄貴最近性格が……
ジョニー:いーからよこせっつーの! むふー、むふー。
ボブ  :鼻息荒いッスよ。それじゃあ除去機をセットして、兄貴お気に入りのAVをセットしてっと……再生、ポチっとな!
ジョニー:う、うおおおおーーー! …………おお、おぉ?
ボブ  :どしたんスか?
ジョニー:……なんかよ、モザイクを滲ませただけで、全然除去されてるっつー感じじゃねえよな。
ボブ  :そりゃそッスよ。元の映像に別映像としてモザイクを載せてるわけじゃなくて、そもそもモザイクをかけた映像が収められてるんスから。画像ファイルのマスクを外すのとはワケが違うッスよ。圧縮しまくって劣化したjpeg画像から元画像は取り出せないッスよね? アレと同じッスよ。非可逆ッスよ。
ジョニー:…………
ボブ  :兄貴、そんなことも知らなかったんスか? 無邪気っていうかなんていうか。
ジョニー:ク、クポポー!?
ボブ  :まったく、リビドー全開の中学生だって、最近じゃそんな馬鹿馬鹿しいものにはひっかからないッスよ。
ジョニー:……グ、グレてやるぅ〜〜!! うわぁぁぁぁあああああああああん!!!
ボブ  :ど、どこ行くんスか兄貴! 兄貴ぃぃぃいいいいーーーー!?

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